Answer 50 

タマが言った通り、司はつくしがその場にいたことに最後まで気づかなかった。

楓が静かに息を引き取ると、つくしは病院を出てマンションへと戻った。
何故かひとりになりたくなくて、タマを誘おうとしたのだが道明寺の使用人頭ともなればやらなければならないことが山積みとなるだろう。
一瞬総二郎の顔がよぎるが、お茶を点ててもらう気分でもない。
仕方なくひとりマンションへ戻り、ソファへ沈み込むと、両手を広げて眺め温かかった楓の手を思う。

つくしの楓への感情は複雑である。

最悪な出会いだったにもかかわらず、最期を看取る関係になった。
厳しい言葉をかけられる方が圧倒的に多かったけれど、そこには以前のような敵意から来るものではなかったはずだ。
何度か二人きりで話をする機会にも恵まれ、楓の気持ちの一部も読み取れた。

家族に対してはとても不器用な愛し方しかできなかったのかもしれないが、しっかりと母親、そして妻として家族を愛していたことを告げて旅立っていった。
孤独なことも多かったはずだ。それでも最後に家族に見守られて旅立てたことは、楓にとって幸せなことだったのかもしれない。

そしてつくしはこれからのことを思う。

病院の外には相変わらず報道陣が取り囲んでいて、すぐに楓の死去を掴むに違いない。
あれだけ国内外に影響力を持つ人間がこの世を去ったわけだから、混乱は避けられないだろう。
そしてその人物の遺言書を預かる身として、つくしは悲しんでばかりもいられないことに嫌でも気づかされる。

遺言書の作成を任されたときは道明寺の法務部門に所属する弁護士だったが、実は遺言書の作成は弁護士のつくしが個人的に依頼されたもので、その契約は今でも生きている。したがってある程度の時期が過ぎれば、つくしが公開し処理しなければならないのである。
楓が不治の病だと知らされ、遺言書の作成を依頼された時から、ある程度の覚悟はしていたつもりだったが、実際に楓が亡くなってみると想像以上の緊張感がつくしを包み込んだ。
今後のスケジュールは司と椿を中心にして西田と詰めていくことになるのだろうが、今のつくしには西田からの連絡を待つことしかできない。それまで遺言書を守り抜き、無事に公開の日を迎えることがつくしに与えられた仕事なのだ。


******


楓の亡骸が病院を出るときにも報道陣はいたのだが、なぜか外に漏れることもなく無事に屋敷へと戻ってくることができた。そして楓の葬儀は密葬としてその死去を知るごくわずかの者の手によって厳粛に執り行われた。

不思議なことが起こったのは密葬が終わって3日後のことだった。
どういうわけか楓が極秘退院をし、仕事復帰へ向けてアメリカへ旅立ったという情報が流れ突然病院の周囲は静けさを取り戻し、道明寺ホールディングスの子会社のほとんどで落ち込んでいた株価が上向き始めたのである。

いつまでも極秘にしているわけにもいかないため、事実を知る者でタイミングを見計らっていたのだが、『アメリカでリハビリを行っていた道明寺楓社長』から、数人の会社幹部と持ち株会社社長宛にメールが届いたことで事態は少し複雑になってきた。

楓は生前、自分の仕事をきちんと処理をしたと言っていたが、司の知らないところで楓のやっていた仕事がごく自然に司の担当分として振り分けられ、すでに安定していたのである。しかも楓の死去を知らない幹部や子会社の社長宛にメールは送られて来たわけで、わざわざ楓の死を今公にして自ら混乱させることもないという判断に至るのは自然な流れだった。
下落を続けていた株価は、上向きとなり下落前とそれほど変わらない状態にまで回復していた。

司は自らの通常業務をこなしながら、楓の死去に伴う状況把握に1か月の時間を費やしていた。

副社長室でパソコンを眺めていた雪乃が突然大きな声を上げた。

「副社長!これを!これを見てください!」

雪乃が大きな声を上げることに驚いた司は、どうした、と言って雪乃のパソコンを覗き込んだ。
回復していたと思われていた株価が、再び下落を始めていたのである。

「どういうことだ!何かあったのか…?」
「わかりません、至急調査します」

このままでは子会社のいくつかを手放すことも考えなければならない。
楓の死去をすぐに国内外に公表すれば、もっと早く危機は訪れていたはずなのだが、そうはならなかった。
それがここへ来ていきなり下落し始めてしまった。このタイミングで楓の死去が漏れることがあれば、道明寺は再起不能に陥ってもおかしくない。
司は背中にヒヤリとしたものを感じるが、今はそんなことに構っていられるほどの猶予はない。

「調べろ!何かが起きてる」









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2018/12/22 (Sat) 13:41 | REPLY |   

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