Answer 43 

缶詰になっているメイプルホテルの一室で、つくしは椿、西田のふたりと向き合っていた。

近い将来必ず訪れる楓の死。

”その時”が訪れた時にどう対応するのがベストなのか、楓の希望も交えて打ち合わせを行っていた。
もっとも頭を悩ませたのが、司にどう説明するのかということと、楓の死去をどう内外に知らせるかと言うことだった。

楓の容体は日に日に悪化し、命の灯が尽きかけているのは素人目に見てもわかる。
いくら楓の希望だとは言っても副社長という立場上、司にこの事実を伏せておくのは厳しい状況になってきている。
現に楓はこれまで黙っていた椿を呼びよせた。

司は道明寺グループの正式な後継者であり、楓の死後に事実を知らされればどんなことが起きるか予測は不能である。

「私から話します」

沈黙を破ったのは椿だった。

「これは会社がどうとかいう以前に家族の問題です。家族と言えるかどうかはわからないけど、私から話すのが筋よね。今の司がどう出るかはわからないけど、事実を話して今後をあの子に決めさせなければならないもの…」
「わかりました。ではその件に関しては私がスケジュールを調整いたします」
「ありがとう西田。それと…公表の時期よね…」

その時、西田のスマートフォンが鳴った。

「病院からです…」


******


目の前に横たわる女性を見て、特別な感情があったわけじゃない。
ただ自分を産んだだけの女。
一度だって愛情を感じたことはなかったし、母親として愛したことはなかった。

ただ、ポタポタと規則的に落ちていく水滴を眺め、やせ細って別人のようになってしまった楓を黙って見つめていた。

近くにあった椅子を引き寄せ、そこに腰を下ろす。

―こんな風に眠るんだな

家族とは言っても顔を合わせて言葉を交わすことなど数えるくらいしかなかったし、寝顔など見たこともない。
当然化粧もしていないので顔色の悪さは際立っていたし、痩せてしまった顔は「道明寺楓」ではないように見えた。

暫く目の前の女性の寝顔を眺めていると、ゆっくりと瞼が開く。
視点が定まらないのか、人の気配を感じてはいるようだが、それがだれであるかは認識できていないようだった。

「に…西田…?」

酸素マスク越しに弱々しく発する声には以前のような威厳も張りもない。

「ずいぶん、弱っちまったな」

西田とは異なる声を耳にした楓は、次の瞬間目を見開き呆然と司を見る。

「つ、つか…さ…?」
「西田に間違えられるとは…心外だな」
「ど、どう…して…ここ…に…?」
「いつまでもガキじゃねぇんだよ。バカにすんのもいい加減にしろよ」
「仕事…仕事は…どうした…んですか…?こんな…場所で…呑気に何を…」
「あんたこそこんな時間から呑気に昼寝かよ」
「……」

楓はもう諦めたのか、それ以上何も言わなかった。
すると病室の外がバタバタを騒がしくなり、足音がだんだん楓の病室に近づいてくる。
数人の足音が病室の前でピタリと止まった瞬間、静かに扉が開いて人が入ってきた。

「つ、司…」
「よお、姉ちゃん」
「どうして…」
「それはこっちのセリフだね。俺、一応後継者だぜ?こんな大事なこと黙ってるってどういうことだよ」
「……」
「しかも部外者まで連れてきて、いったいどういうことなんだよ」
「そうね…わかった。きちんと説明するわ。西田、控室に」
「かしこまりました」
「つくしちゃん、悪いけど母を…」
「はい、わかりました」

一瞬つくしのことを見た司だったが、そのまま無言で前を通り過ぎ、隣にある控室に入っていった。

それまで司が座っていたと思われる椅子に腰かけると、楓はつくしを見つめ数回瞬きをして呟いた。

「お粗末…な仕事ね…」
「申し訳ありません」

きっと司に伏せておくという約束のことを言っているのだろう。

「まあ…いいわ、秘密と…言うもの…はいずれバレるものです…」
「あまり無理してお話されないほうが…」
「興奮などしていません…心配はご無用よ…それより、少し起こして…くださらないかしら…」
「わかりました」

つくしはベッドのレバーを回し、楓の様子を見ながら上半身を起こす。

「少し…昔話を…しようかしら…」

弱々しくそう呟く楓を見て、つくしは黙って頷くことしかできなかった。









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5 Comments

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2018/12/16 (Sun) 08:28 | REPLY |   

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2018/12/16 (Sun) 10:19 | REPLY |   

やこ  

たかあややん様

こんばんは!コメントありがとうございます。そしてブロとも申請ありがとうございました。
個別にお礼もできずに大変申し訳ありません。

そうなんですよね、朝起きるのが本当に辛い!それなのにこのお話をモチベーションアップにつなげていただけるなんて本当にうれしいです。とはいえまだまだお話は辛い状況から抜け出せませんし、イライラしてしまうのではと心配しています。
とはいえ、皆さんの感情をいい意味で揺さぶることができるということは、書いてる立場からすれば本当にうれしいことなんです。
まあ、1話1話が短めでし、気になるところで「次回へ続く」になってしまえば、ハラハラするのも無理ないか(笑)
なかなか皆さん恥ずかしがり屋さんで、我が家のコメント欄は敷居が高いようです。拍手やランキング同様、私の頑張る力になりますので、これに懲りずにまたコメントをお待ちしています。

2018/12/16 (Sun) 23:03 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。
楓さんだいぶ具合が悪くなってきました。
今回、割とポピュラーな病気を想定しながら書いているんですが、デリケートな問題かなとも思って敢えて病名は伏せてます。
やっぱり具合が悪い描写っていうのは気が滅入りますね。中には読んでて不快な方だっているかもしれない…。
でもやっぱりお話の中では重要だし…。

おっと、しんみりしてしまいました。

カウントダウンライブも外れてしまいヤケになってますので、おそらくパソコンに向かいながらの年越しになりそうです。

2018/12/16 (Sun) 23:11 | REPLY |   

やこ  

ku***n様(拍手コメント)

道明寺家ってホントに特殊な家族ですよね。
でも楓さんにとっては椿も司も大切な子供達なはずなんです。
そこを上手く表現できてればいいな!
拍手コメントありがとうございました。

2018/12/16 (Sun) 23:14 | EDIT | REPLY |   

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