Answer 42 

つくしは楓の残す遺言書の作成に追われていた。
楓の遺言書ともなればその作成や保管には細心の注意を払わなければならず、会社のデスクで処理するわけにも、自宅に持ち帰るのも危険だ。
西田の手配により、メイプルホテルの一室に偽名で宿泊し、厳重な管理の下法的効力のある遺言書の作成にすでに数日を費やし現在に至る。

楓名義の個人資産や不動産の分配、持ち株会社の割り振りの希望を文書にしてみると、つくしは資産家の遺産相続の複雑さを思い知る。
司の父親は長く病床に就きすでに財産のほとんど楓に譲渡していたため、楓の持つ財産は莫大なものとなっていた。
楓の死後にトラブルなく分配しなければならないわけだから、弱った体に鞭打って処理に奔走する理由にも納得できる。

これが楓なりの愛情表現なのだろう。

全財産の約半分をすべて司に譲渡し、4分の1を椿やその子供達に遺すというものであることにはあらかた納得することができた。
ただし残りの4分の1のうちの半分を、『婚約者の久我雪乃』に譲渡すること、という部分につくしは一抹の不安を感じていた。

司は雪乃を婚約者として認めておらず、正式に婚約には至っていない。つまり楓の死去と同時に、司は雪乃を強制的に婚約者として受け入れなければならず、いずれふたりは夫婦となり道明寺を引き継いでいくことになる。

楓が無理に婚約を進めなかった理由がここにあったというわけだ。

司自身が保有する個人資産だけでも相当なものなのに、楓の遺産を相続すれば世界的な規模となるのは間違いない。
仮に司がこれだけの財産相続を放棄するなどと言い出した時のことを考えると恐ろしくなる。
一般人には到底理解できそうにないスケールの大きさに、つくしはため息をつくことしかできずにいた。


******


「どういう…ことだ…」
「ですから社長が…。椿様が東部大学病院を受診したわけではなく、楓社長が…」

山本の独自ルートを使った調査はすぐに結果を出した。
楓が重篤な状態で入院していたこと、そして生きて退院する見込みはないということ。

「社長の希望で椿様にも全くお知らせなさらなかったようですが、最近お加減が急激に悪化したためLAからお呼びになられたご様子です」
「なんなんだよ…」

元々年に一度会うか会わないかという関係性。
ホテル事業で世界中を飛び回っているとしか報告は上がってこなかったし、これまで興味もなかった。

「ふっ」

実の親子でさえ徹底した情報の遮断ぶりに、司は笑うしかなかった。

「申し訳ございません」
「お前が謝ることじゃねぇよ。西田だろ、共犯は」
「そのようです」
「なるほどな。姉ちゃんがこのタイミングでLAから帰国したってことは、完全なるトップシークレット扱いだろうな。息子の俺ですら知らねぇんだから会社の幹部なんてババァが死んでから知らされるんだろう。下手したらしばらく死んだことすら伏せるつもりかもしれねぇ」

そこまで話すと副社長室のドアがノックされる。
司と山本は会話を切り上げ、報告書を引き出しに入れて鍵をかける。山本がドアを開けると雪乃が入って来た。
雪乃が席に着くのを見ていると

「あの…何か…?」
「いや…」

―この女との関係はどう転ぶのか…

これまで婚約者として認めたことは一度もないし、認めるつもりもなかった。
楓の命が尽きるとなれば、雪乃との関係も今まで通りと言うわけにはいかない筈だ。
経営センスは抜群で、正直なところ今雪乃を道明寺から追い出すのは惜しい。とはいえ、結婚相手としてここへ呼ばれてきた雪乃やその両親の立場なら、なかなか進まない結婚話に不信感を持っていてもおかしくない。

思えば雪乃のプライベートは全くの謎。
仕事の会話をすることはあっても、司には私的な会話は記憶になかったし、よくよく考えれば愛想笑い以外の笑った顔は見たことがない。

そんなことを考えていると、司は母親が死の淵に立たされているというのにくだらないことを考えてしまう自分の思考に今更ながらおかしくなる。

目の前に積まれた書類の山に手を伸ばそうとした司は、一瞬動きを止め

「ちょっと出てくる」

立ち上がって副社長室を出る。
その後ろ姿を、雪乃は黙って見送った。









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2 Comments

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2018/12/15 (Sat) 11:15 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。落石させた張本人です(笑)

プロットを作ってあるとは言っても細かい部分は結構未定なんです。
で、これからお話が大きく動いて行くのは必至なので、いつになくワクワクしたりしてます。

Answerの限定記事を出してから結構な数のブロとも申請いただきましたが、皆さんかなりドキドキだとコメントいただいてます。ただ記事にコメント出来ません、読専です、という方がとっても多いみたい。
こちらとしてはコメントいただいて、皆さんの反応が気になるところなんですけどね。
ノリノリで書いてても反応ないと凹みますし、面白くないのかな…なんて思っちゃうことも正直あります。
長くなりそうだと、完結を待って一気読みって人も多いのかもしれないですね。

なかなか週末にしか書き貯めできないので、明日明後日頑張ります(^_-)-☆

2018/12/15 (Sat) 22:07 | REPLY |   

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