Answer 39 

裁判所まで車に揺られる時間は20分とそれほど長くはない。
しかしお互い無言のまま過ごす時間が何時間にも思えてつくしは息苦しさを感じていた。
時計を見ても会社を出てから10分しか経過しておらず、特にすることもないつくしは手帳を繰り返しめくるくらいのことしかできずにいた。

その時携帯電話の振動がバッグから伝わり、周囲の荷物に触れていつもよりも大きく音を立て始めた。
通話ではないメッセージが画面に表示され、総二郎から夜に相談させるであろう内容の一部がチラリと見えた。
チマチマと文字を打つのが苦手なつくしは、通話ボタンを押そうとして我に返る。
このまま総二郎に電話をしてしまえば、会話の内容を司に聞かれてしまうことは必須だ。疚しい内容ではないが、昨晩の司の態度を考えると総二郎との間に何かあると誤解をしているようだったし、今後何をされるかわからないことを考えるとここで通話をするのは危険だと判断。後でじっくりと読むとだけ返信し、つくしは再び窓の外を見つめた。

窓には書類に目を通し終わったのか、反対側で目を閉じる司の姿がうっすらと見えた。
司がこれまで女性に対して行ってきた強姦まがいのことを自分にもしておきながら、何故か自分が外に放り出されることなく、しかも泊っていけとまで言われた点を考える。

理由はどうあれつくしも司に対してひどい仕打ちをしたわけで、何をされても文句を言える立場ではないことは承知の上だ。しかし今日はそれを詫びるような言葉もかけられている。
2年前のような特別な感情を向けられているわけではないとはわかっていたし、結果的に乱暴に抱かれただけで済んだことを思えばつくしにとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。

車が裁判所の前に停車すると、山本が後部座席のドアを開けた。
お礼を言ってそのまま外に出ようとすると、いきなり手首を掴まれ悲鳴を上げた。

「痛っ…!」

昨晩ベッドに縛り付けられもがいた結果両手首足首には赤い痕が付いていて、特に手首は一部が擦り切れ血が滲んでいた。
その部分を司に握られたことで痛みが再び襲い、つくしは顔をしかめてしまう。

ところが傷を付け、その手首を掴んだ張本人は掴んだ腕を離すと自分の掌を見つめて呆然としている。つくしは痛む腕を反対側の手で保護するように包み込むと、山本に軽く会釈をして裁判所の入り口に向かって歩いて行った。
その姿を見送りながら司は思う。

―何をしてるんだ、俺は


******


「室長、すみません。社長秘書の西田さんから連絡ですぐお屋敷…に来てほしいとのことなんですが…」
「ああ、いいよ。僕もちょっと寄り道してから帰るから。ひとりで行けるね?」
「はい、内容によっては直帰になるかもしれないみたいですが大丈夫でしょうか?」
「急ぎの案件がなければそれでもかまわないよ。気を付けて行ってきなさい」
「ありがとうございます」

すぐに来いと言う電話を受けたのは本当だが、行き先は道明寺邸ではなく病院だった。
西田からの連絡がいい知らせであったことは皆無だが、病院に来いと言われつくしの足取りはいつも以上に重かった。
裁判所と病院は目と鼻の先だが、楓の入院はトップシークレット扱いで限られた人間しかその事実を知らされていない。
細心の注意を払い、病院へと足を踏み入れる。

エレベーターで5階へ上がり、そこから階段でひとつ下の階まで降りると再びエレベーターを使って最上階へと昇って行く。
更に職員専用の階段をひとつ降りた場所に、楓の病室がある。
この階は本来ならば一般の入院患者や見舞客が足を踏み入れることができない場所にある。

最上階に辿り着き、周囲を見回しつつ職員階段を降りるつくしは、誰の目にも触れることのないような場所で一生を終える楓の気持ちを思う。自分を見舞う人もおらず、人目に触れることもないであろう場所で一生を終えること。楓と同じ立場になった時に、果たして自分も同じ環境を受け入れることができるだろうかと。

廊下のパイプ椅子に腰かけ、書類を手にする西田が視界に入ると、西田もすぐにつくしに気が付き軽く会釈をする。
どうぞと言われて病室に入ると、そこにはLAから駆け付けた司の姉・椿の後ろ姿があった。

「つくしちゃん…」

椿は病室に入ってきたつくしに気づくとそう呟いた。

「お姉さん…」

司を取り巻く人間のうち、つくしとの関係性に唯一変化がないのは椿ひとりである。思えばこの椿に会うのも数年ぶりのことだが、お互いに再会を抱き合って喜べるような環境にないということは本人同士が一番わかっていた。









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4 Comments

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2018/12/12 (Wed) 06:55 | REPLY |   

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2018/12/12 (Wed) 07:21 | REPLY |   

やこ  

星樹様

初めまして、コメントありがとうございます。
コメント中の単語のせいで迷惑コメント扱いになってしまっていたようですが、きちんと届いております。
貴重なご意見、ありがとうございました。私も同意見ですよ!卑劣な犯罪ですからね。女性ばかりがヒドイ目に遭うなんておかしいです。

実は私もここからハピエンに持っていけるのかと書きながらビビっています。
いや、無理矢理もっていくことは可能でしょうけど、不自然なお話になるのは嫌ですので…。
かなり難易度が高めですけど、始めた以上は終わらせないとね!!

37話は賛否両論ある内容だったと思いますが、一応ぬる~いですが他にも限定記事はございます。もしよかったら申請してみてください。笑えるものもあれば、今は少ないですがイラスト付きのものもございますよ(^▽^)/

2018/12/12 (Wed) 11:06 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんにちは。

いやー毎度のことながらスリーさんのお話を深く読み込む力には完敗です。
こちらが訴えたいこともしっかりと掴んでくださるし、こちらが思ってもみないことまで鋭くツッコむ能力!一度お話書きましょうよ(笑)

今日も明日も明後日も…つくしと司とやこの苦難は続きます。

2018/12/12 (Wed) 11:20 | REPLY |   

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