Answer 38 

結局、つくしは使用人の制止を振り切って、1時間の距離を歩いて自分のマンションへと戻って来た。
司に散々弄ばれた体で1時間の距離を歩くのはかなり堪えたが、司と同じ空間にいることが耐えられずに飛び出したと言うのが正直なところだ。

かつては狂おしいほど愛した男。
あんな目で自分を見て、優しさのかけらも感じられない情事。

気付けば外は明るくなっている。
社長の口利きで入社したとは言っても組織の中では新人であり、楓の病院に行く為に休暇を取っていたこともあって、今日はさすがに休めない。
フロアは違っても、同じ建物の中にいれば司と鉢合わせしてしまうこともあるかもしれず、つくしは気が重い。

服を脱ぎ捨てシャワーを頭から浴びると、我慢していた涙が流れて止まらない。
これが自分の選んだ地獄なのか。
鎖骨付近に無数に付けられた赤い痕。それを鏡で見るたびに絶望に打ちひしがれた。


******


瞼の腫れは十分に冷やしてきたので目立たない。
自分に与えられた使命はこの会社を法の立場から支えること。恐らく楓に残された時間はそれほど長くない。かつては虫けらのように扱われ、今のこの状況を作り出したとも言える人物ではあるが、心残りが少しでもないように旅立たせたかった。

とは言え出社したつくしに待ち受けていたのは、新たに届いた司個人に対する内容証明。
この先どれだけ同じ処理を行い、自分が受けた仕打ちを都度思い出さなければいけないのか。つくしは暗く沈んだ気持ちでパソコンを見つめることしかできなかった。

「牧野君、これから裁判所のほうに行く用事がある。悪いが同行してもらいたいのだが」
「え、あ、はい。すぐ準備します」

この申し出はつくしにとって救いだった。
自分のデスクには昨晩の司を思い起こさせるものばかり。上司とではあるが外の空気を吸いながら移動するだけでもかなりの気分転換にはなるだろう。
バッグを掴んで上司の後に続いてエントランスへと向かった。

受付を通り過ぎたあたりで携帯電話が鳴っていることに気づいたつくしは、上司に断りを入れて電話に出た。

「西門さん」
『おう、忙しいとこ悪いな。お前この時間くらいしか捕まらねーから電話してみたけど、今少し大丈夫か?』
「あ、うん少しならね」
『実はちょっとだけ面倒なことに巻き込まれてな。詳しいことは後で説明するけど、事情があってうちの弁護士を使えない状況になってんだよ。相談に乗ってくんねーかな」
「何?女の人がらみ?」
『バカ、俺じゃねーよ。近々時間取れねー?』

つくしは手帳を開いて、スケジュールを確認し

「あ、しばらく仕事上がりは厳しいかな。今日とかだと西門さんも忙しいでしょ?」
『ん、ちょっと待てよ。今夜か。ああ、1件ヤボ用ドタキャンすれば大丈夫だ』
「ドタキャンって…大丈夫なの?」
『こっちは頼む立場だからな。なんとかする』
「わかった。19時頃なんてどう?」
『ああ、それじゃ俺のところの車を向かわせるからそれに乗ってきてくんねー?北野っていう小太りのおっさん運転手だからすぐわかると思う。簡単に事情をLINEしとくから、時間があるときにでも読んでおいてくれよ』
「北野さんね。わかった。会社の前は車停めるのも一苦労だろうし、駅の南口付近で待っててもらえると助かるんだけど…」
『おう、伝えとく。それじゃな、忙しいのに悪かった』
「ううん、大丈夫。それじゃまたね」

総二郎との電話を切ったあと、上司にお礼を言って歩き出すとロビーがにわかにザワつきだした。嫌な予感がしたつくしが恐る恐る振り返ると、数メートルほどの距離に秘書とともに歩く司の姿が目に入った。

「副社長。お疲れ様でございます」
「ああ…」

上司が遠目に声をかけると司は右手を上げて応じたが、すぐ近くにつくしがいることに気づくと、

「コイツ、連れて行ってもいいよな?」
「は?え、ああハイ、どうぞ」

つくしの腕を掴むと、引きずるようにして外へ出た。

「あのっ!あたしは今から裁判所に…!」
「裁判所で降ろせばいいんだろ?なら乗せてやるから来い」
「いや、でも…」
「ガタガタうるせぇんだよ、いいから乗れ」
「いや…その…」

上司に助けを求めてはみたが、『向こうで会おう』とジェスチャーで応じとてもあてにはならない状況だ。
抵抗する間もなく黒塗りの車に押し込まれ、渋々体勢を整えていると隣に司が乗り込んできた。

「あの…秘書の方は…?」
「前に乗ってるだろ」

冷たく言われて、後が続かない。
そもそも昨夜のことを考えると、司と呑気に会話をするなどできるわけもない。
今日はリムジンではなく通常の社用車ではあったが、前部と後部では分厚い壁で仕切られていて、前に誰が乗っているかなどつくしにはわからない。

―あんなのどうってことない。忘れよう。

つくしは自分に言い聞かせ、窓の外を眺めていた。
隣に座る司は司で、つくしを引きずり込んだわりに無言で書類に目を通し、何かを書き込むなど仕事に専念しているようにも見えた。

「昨夜は悪かったな」

沈黙を破ったのは司だった。
忘れようとしていたことを蒸し返されるよりも、突然声をかけられたことに驚いたつくしだったが

「いえ、もう忘れましたので…」

そう冷たく返事をする。
つくしが会話を終わらせたのでそれ以上司も何も言っては来なかった。









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4 Comments

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2018/12/11 (Tue) 08:20 | REPLY |   

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2018/12/11 (Tue) 08:22 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。
今日はいつになく長いコメントをありがとうございます。そしてどういうわけか同じ内容が2回送られていたので、ひとつにまとめますね。

60話まで作ってあるのは、60話は軽く超えるだろう…という意味ですね。もしかするとラブシン超えかも…。
年内完結どうですかね…頑張りますけど、今日の時点で47話まで予約してあってプロットで言えばやっとこさ半分、という感じなのでね…。
気持ちとしては年内にスッキリサッパリ終わらせたいんですけど、もしかすると年越してしまうかも…というのが現在の見解です。そうなると年内1日2話に更新になって、たぶん心が折れてしまうでしょうね。ただ、超えるとしても元旦から通常営業するつもりなので、冬休み中もお楽しみはいただけますよ(爆)

2018/12/11 (Tue) 20:34 | REPLY |   

やこ  

りりあ様(拍手コメント)

こんばんは!拍手コメントありがとうございます。
そうなんです、とっても悲しい本日朝6時だったんですね。
今のところふたりが幸せになれる要素は限りなくゼロに近い。でもこのままってことはない(はず)し、信じて待っててくださいね。年内完結…どうでしょうね。ちょっと厳しいような気がしますけど、突き進むのみ!頑張りますので応援お願いします💜

2018/12/11 (Tue) 20:39 | REPLY |   

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