Answer 35 

「もしかしてお加減が…?顔色が優れませんが」

雪乃が異変に気づくだいぶ前から、司はつくしの顔色が悪いことに気づいていた。
だが今つくしのことを心配する立場にはないし、義理もない。
ただ、なんとなくモヤモヤとした気持ちがまとわりついた。

「いえ、大丈夫です。お気遣いなく…」

―進行方向と逆向きに座って書類なんか見てりゃ気分も悪くなるだろ。

つくしの話す内容には興味もない。
これまで通り金で解決できることを複雑にすることはない。知らない女を抱いていようがいまいが裸で放り出したのは事実だし、めんどくさい女には手を上げたこともある。
つくしと知り合ってからの4年こそ司にとって狂っていた時期で、英徳学園を牛耳って陰湿な遊びを繰り返した頃に戻っただけのこと。
それのどこがいけないのか。
必死で耐えてきた3年を台無しにした目の前の女さえ苦しめばいいのだと…。

「ではなるべく示談へ持ち込むという方向で話を進め……」

言い終る前にゆっくりとつくしの体がシートに倒れ込んだ。

「おい、おい!牧野…!運転手!!牧野の様子がおかしい、急いで屋敷に向かってくれ」
「かしこまりました」
「牧野、しっかりしろ!」

倒れ込んだつくしに咄嗟に声をかける司の姿を雪乃は冷めた目で見つめていた。

屋敷に到着すると、司はつくしを抱き上げようと先に車を降りた。

「副社長…?」

雪乃がそう声をかけると司は我に返り、

「佐藤、中に運んでタマを呼んでくれ…」
「かしこまりました」
「ああ、そういや食事に行こうと出たんだったな…なんか作らせっか」
「いえ、私は結構です。このまま帰宅します。ここのところ社に泊まり込みでしょうし、副社長もゆっくりお休みください。では…」
「送らせるからそのまま待ってろ」
「ありがとうございます」

それだけ言うと雪乃を残して屋敷の奥へと姿を消した。

―あんな女、どうなろうが俺の知ったことじゃねぇのにな…

なぜつくしを心配するような行動に出てしまったのか、考えるだけ無駄だと司は自室へ戻ろうとした。

「坊ちゃん」

振り返るとそこには母親よりも長い間過ごした使用人の姿がある。

「なんだよ、タマ、まだ生きてたのかよ」

すでに挨拶代わりになっている言葉を吐き捨てるが、特に用事もないとそのまま去ろうとすると再び声がかかる。

「つくしに付いてやってくれないかい」
「は?」
「あんたたちの気持ちはよくわかってる、少しだけでいいから傍にいてやっておくれ」
「やだね、なんで俺が」
「どうしても、かい?」
「うるせぇな、何度も言わせんな。それ以上言うと殴るぞ」

そのままタマに背中を向けると廊下を進み、部屋に入っていった。


******


つい数日前に会ったばかりの楓の体は、衰弱してきていることが素人目にもわかるようなほど弱々しく、あれほど強く放たれていたオーラは鳴りを潜めている。
それなのに細くなってしまった腕を必死に動かし、タブレットを使って何かをしている姿を見ると胸を締め付けられるようだった。

「牧野さん…こんな…ところで油を売ってる…ようでは…先が思い…やられます…わ…」

点滴に繋がれて、鼻には酸素チューブらしき管がある。
途切れ途切れに言葉を発している様子を見て、楓に残された時間はそれほど長くないのだとつくしは悟る。
それでも最後まで彼女は『道明寺楓』でいようとするだろう。

「社長…ゆっくりお休みになってください、体調がすぐれないのに仕事なんて…」
「奥様…」
「タマさんまで…いったい道明寺は…どれだけ…暇なのかしら…」

タブレットを西田に手渡すと、一瞬苦しそうな表情を見せるも目の力だけは今までと同じ。

「こんな…こと…ではまだまだ死ねません…ね…」

いたたまれなくなったつくしは、ベッドの横に置かれた椅子に腰かけ、点滴に繋がれた細い手を握りしめた。

「もう仕事なんてしなくて構いません。副社長は専務と協力し合って立派に仕事をなさってます。大丈夫、大丈夫です…」
「あんな株価で…どこが大丈夫だと…言うのです。やっぱり司では無理…なのよ…。早く…早く雪乃さんと…」
「専務との距離も少しずつですがいい方向に向かっています。昨日もお食事に誘われていたようですし…」
「婚約を…早く婚約までこぎつけないと…」

すると今まで比較的穏やかだったのに、呼吸が苦しいのか胸を大きく上下させて苦しそうに顔をゆがめる。

「西田さん、先生を!」

ナースコールを押した後西田は病室を出て近くにいた看護師にも医師を呼ぶよう手配し、つくしも医師の治療の邪魔になってはいけないと席を立とうとした。

「!」

この細い腕にまだこんな力が残っているとは…。
楓はつくしの腕を力いっぱい握りしめ

「司を…司を…助けて…」
「ええ、できる限り副社長を支えます。だからどうか落ち着いて!」
「…椿を…椿を呼んで頂戴…」
「椿お姉さんですね?わかりました、手配します。LAから最短で会いにきてもらえるよう、手を尽くしますからっ…!」









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2 Comments

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2018/12/08 (Sat) 07:25 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。
今頃愛を叫んでいる頃でしょうか?(笑)

スリーさん、さすがですね。昨日のコメントを読んでドキッとしてしまいました。
でも運ぼうとして我に返ったでしょ??
ふたりとも意地っ張りなので、なかなかラブ再び、とは行かなそうです。


さーて、明日はどうなるか??
今夜は夢見気分ででしょうから、明日は絶叫コメントしないでね(笑)

2018/12/08 (Sat) 19:27 | REPLY |   

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