Answer 30 

『邪魔なの…』

電話口に告げられた言葉が司の頭から離れない。
これまで3年間必死でやってきた自分を否定されたような気がして、すべてがどうでもよくなっていた。

酒の量は増え、タバコにも手を出した。
どんなに疲れていてもぐっすりと眠ることができずに、睡眠薬を飲んで無理矢理眠る日々。

別荘で抱いた女は自分に対して確かに愛情を持っていた筈なのに、一瞬にして『邪魔』な存在になってしまった。

母親は健在で、勝手に婚約者として現れた経営のプロもいる。
自分が会社をどうこうしなくても「道明寺」という組織が崩壊することはないだろう。

お飾りのジュニアになるならそれでもいい。

「なあ、兄貴…」

兄貴と呼ばれた男、山本は移動中の車内でそんな風に呼ばれたことに驚いた。
10歳年下の上司は、プライベートでは可愛い弟のような存在だったが、公私をきちんと弁える男だったし、仕事中に『兄貴』などと呼ぶことはなかった。
司がそう自分に呼びかけるということは、今の司は私的な目的で自分を必要としているはずで、山本もそのつもりで応じる必要性を感じた。

「ああ、どうした?」

無理矢理食べて運動させられているため見た目に変化はないように見えるが、目的の為に溌溂としていた頃のとは別人にようになってしまった男を静かに見つめる。

「いつになったら、こんな状態から抜け出せるんだろうな…」
「…」

その問いに答えを出すのは司自身である。
黙って彼を見守る以外に山本にできることはない。
司好みの女性をマンションに呼び、当てがうことが司にとっていいことだとはとても思えなかったし、そうすることが司の精神を崩壊に導いているとしか思えなくても、どうすることもできなかった。

「忘れられないのか?」
「忘れる?忘れられるかよ、憎くてたまんねぇよ」

―憎い…か。

山本には愛情が憎しみに変わってしまったようには思えなかった。
本当に憎しみを抱いてしまったのであれば、司ほどの地位なら彼女の人生をめちゃくちゃにするほどのことは簡単にできたはずである。
彼女を忘れられないのは愛しているからで、『邪魔だ』と排除されてしまった自分の気持ちの行き先をどう処理していいのかわからないだけなのだと。

「忘れることはないさ…。その苦しみを他の何かにぶつけることでみんな忘れていくんだろ…お前はその何かがまだ見つけられないだけなんだ、だから苦しいんだよ」

閉じられた目から一筋の涙を流し、浅い眠りに入ってしまった司に、山本の言葉が届くことはなかった。




******



2年後


「自由と正義」を表すヒマワリをモチーフにしたデザインの中央には、天秤が刻印されている。
同じ重さでつり合う天秤に「公正と平等」という意味が込められた弁護士バッジを胸に、つくしは東部大学病院の特別室にいた。

薬との相性がよかったという話は西田から聞かされており、以前のようにとまでいかないまでも顔色のいい楓を前にしてつくしは緊張を隠せなかった。

「すっかり立派な弁護士ね…」
「いえ…」

褒められているのか皮肉なのか、判断の付かない楓の態度は今でもつくしにとって苦手なもののひとつである。

「契約通りにこれから貴女には今後法律の立場から道明寺を支えていただくことになります」
「わかっています」
「まさか貴女が日米の弁護士資格を取ってこの場に戻ってくるまで、生きていられるとは思っていませんでした。神様がもう少しだけ時間を下さったのかもしれないわね…」

楓が『神様』などという言葉を口にしたことが意外だった。
顔色はよく元気そうに見える楓ではあったが、薬によってここまで生き永らえているだけであって、確実に病魔は楓の体を蝕み続けている。

「ここまで育ててくださったご恩は、仕事でお返しします。何なりとお申し付けください」

それだけ言うと、病室を後にした。

つくしは成長し、契約を結んだ時とは別人のようになって楓の前に戻って来た。
楓は自分の見る目は間違っていなかったと安堵する。しかし同時に成長したつくしの内面に得体のしれない何かを感じ、西田を呼び寄せると書類とタブレットを持ってくるように指示した。









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4 Comments

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2018/12/03 (Mon) 08:40 | REPLY |   

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2018/12/03 (Mon) 09:21 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

おはようございます。
週末落ち着かない日々だったけどやっと落ち着いてストック書けます。
明日からはまた仕事ですから今日は頑張ろ(o^―^o)ニコ

そして嘆きのスリーさんはまだまだ続きますね💦
とても前向きに考えようと必死な姿、イジワルやこの心が痛いです。

実は今朝の公開を迎えるまで、また「さようなら」を言われるのではと構えていました。
なんせ経過をスッ飛ばすのは私のデフォですからこればっかりはね。
ただやっぱり北海道とNYでの期間っていうのはつくしが弁護士になるために集中している期間で、司との別離期間でもあるわけだから、描写を細かく書いているといつまで経ってもこのお話は前に進みませんし、専門的なこともよくわかりませんのでスッ飛ばします。

さあ、明日からは少しお話も前進しますよ!ふたりの絡みも多くなってきます。

今回はどんなネガコメが舞い込んでも気合いと根性で乗り切ろうと思います。

2018/12/03 (Mon) 10:29 | REPLY |   

やこ  

りりあ様

おはようございます。コメントありがとうございます(^▽^)/

ため息いただきました!!
ほんと、切ない場面ばかり続いてしまって申し訳ありません。
それでもこんなふたりに声援を送り、楽しみだと言っていただけることに感謝します。

頑張ります!!!

2018/12/03 (Mon) 10:31 | REPLY |   

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