Answer 25 

つくづく便利だなとつくしは呑気に思う。

スマートフォンを数回操作するだけで、つくしの今後の人生が決まる数字を見ることができてしまう。

司と別れてから半年。つくしは司法試験を受け、合格発表の日を迎えていた。
すでに楓との契約は結ばれているが、事実上の契約は司法試験の合格をもって履行されることとなる。今年度不合格となれば再度来年度の試験を受けなければならず、余命2年と宣告された楓との約束を破り、道明寺財閥を裏切ることになる。
つくしは司との別れを選び、陰から司を支える決意を固めてこの日を迎えている。

必ずや合格者一覧から自分の受験番号を見つけ出さなければならない。

スマートフォンをタップしようと右手の人差し指が液晶画面に触れる直前、つくしは司を思う。
司法試験に合格することは弁護士になるという夢の第一歩であることに違いない。でも不合格であれば楓との契約は不履行となり、楓の余命を考えれば契約をなかったことにできるかもしれない。
しかし合格して司法修習に入って最終試験に合格すれば、財閥の歯車となって司と決別しなければならない。

つまりもう引き返せなくなるわけである。

決別するとは言っても法律家として司を支えなければならないわけで、そうなれば司と顔を合わせないわけにはいかないし、司との日々を忘れて職務に当たることなどできるわけがない。
楓が提案したように、司の愛人にでもなれば少しは救われたのかもしれないが、婚約者や妻のいる人間と不倫関係を結ぶなど、つくしには到底受け入れることができなかった。

夢を叶えることこそが、つくしにとっての地獄なのだ。

だが合格発表の日は容赦なくやってきた。
自分自身で決めたことだ。意を決して画面をタップする。

画面に表示された5ケタの数字。
ただ羅列されているだけの数字にすぎないが、ところどころに抜けがある。

00131

これが司法試験においてつくしを表す数字である。
なんとも皮肉なその番号につくしは苦笑いするしかない。

徐々にその数字に近づくにつれ鼓動が早くなるのを嫌でも感じ、つくしは軽く眩暈を起こす。
しかしここまで見ておいて避けるわけにもいかず、張り裂けそうなほどの鼓動を繰り返す心臓に手を当てながら、視線を徐々に降ろしていく。

「あ…」

00131

つくしは夢を叶え、そして地獄へのスタートを切ってしまった。


******


震える手で西田に合格した旨の連絡をすると、その足で西門邸の門をくぐった。

木曜の稽古ではなかったし総二郎に会えるかどうかもわからなかったが、茶道と総二郎に幾度となく救われたのは確かな事実だった。司法修習に入れば稽古を続けることができるかどうかもわからないし、修習が終われば今度はアメリカに渡らなければならなくなる。
早かれ遅かれそのことは伝えなければならない。

自ら地獄へ向かうとは言え、夢の第一歩を踏み出した喜びがないわけでもないし、合格の喜びを誰かに伝えたい気持ちもあった。
連絡のひとつでもしておけばよかったのかもしれないが、今のつくしは何も考えずに歩きたかった。
総二郎に会えなければそれでもよかったし、会えたからと言って飛び跳ねて喜ぶ心境でもない。

生憎総二郎は不在だったが、西門家の使用人がわざわざ連絡を取り、30分後に帰宅するので待っていてほしいと応接間に通された。
着物に着替えるために使う控室と茶室、長いガラス張りの縁側くらいしか知らなかったが、重要文化財ばりの純和風建築の中にある応接間は、スカンジナビアン調の白を基調としたシンプルモダンな部屋と家具で統一されていた。

西門邸にいることを忘れてしまうほどの異空間は、これから進む未知の世界への不安を不思議と感じさせない。

部屋の外がわずかに騒がしくなり、部屋のドアがバーンと開く。
何故かハァハァと息切れしながらつくしを見る総二郎を見て、つくしは思わず微笑んだ。

「牧野…結果は…?」
「へ?今日が発表だってあたし言ったっけ?」
「バカ、教え子の合格発表日くらい調べて把握してるわ」
「ははは」

荒い息を吐きながら椅子に腰かける総二郎は、つくしの知らない男に見えた。
いつも全身にどこか余裕を纏い、焦ったり急いだりするイメージがないオトコ。
よく見ればじんわりと額に汗が滲み、どこから走って来たのだろうかとつくしに笑みが零れた。

「で、?どうした?」
「あ、えへへ。お陰様で…ね…」
「そうか!!」

総二郎はいきなりスマートフォンを取り出し、どこかへ電話をしようとしてつくしに止められた。

「ちょ…どこに電話するつもり?」
「まずは類だ!そのあとあきら。あとは優紀ちゃんや滋、桜子にも連絡しねーとな」
「え、いいよそんなの」
「いいわけねーだろ!なんなら全員呼び出して祝杯だ!」

どこか他人のことには無関心といった感じの空気を漂わせている総二郎の興奮具合に些か面食らうつくしだったが、これほどまでに喜んでくれる姿を見ていると、暗い気分を吹き飛ばしてくれていた。
とはいえ、世界各国で活躍する友人たちを呼びよせるにはかなり無理がある。

「ってか…司には…どうする?」

つくしは無言で首を横に振った。









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2 Comments

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2018/11/28 (Wed) 07:32 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

祝・合格!

是非1年とちょっとの後にこんな言葉をかけていただきたい私ですが、つくしさん、めでたく司法試験に合格いたしまして、事実上道明寺グループお抱えの弁護士としての第一歩を歩み始めました。
これまでの道のりもかなりつらく苦しいものでしたが、今後どうなっていくのやら。
決してスリーさんに試練を与えているわけではないですよ(笑)
そして潜ったら書くのやめちゃうよ!!
そんなわけで付いてきてください!!!

2018/11/28 (Wed) 11:26 | REPLY |   

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