Answer 16 

ついに司が明日日本に戻るというタイミングで、つくしは西田経由で楓にアポイントを取った。前回のように受付で揉めるようなことはなかったが受付嬢のつくしを見る目は冷たい。来客用のIDを渡されロビーで待っていると、ほどなくして西田が姿を現しエレベーターへと促した。

「あの…社長のお加減は…?」
「あまりいいとは言えませんが、先日よりはよろしいかと存じます。本日のご用件はどういった…」
「すみません、社長と直接お話したいので…。ただ、先日より少し時間がかかってしまうかもしれません」
「左様ですか。今回社長も長めにお時間を確保しておられます。今回私は席を外しますので、恐れ入りますが社長のお加減を考慮した上でお願いいたします」
「わかりました。できるだけ簡潔に済ませるように努力します」

ちょうどそのやりとりが終わったときに、エレベーターは最上階へ到着する。
西田について社長室へ入ると、デスクで何かの書類を処理する楓の姿があった。
つくしに気づいた楓はメガネを外して一息つき、西田に退室を促したあとつくしにソファに座るよう言い、自分もつくしの斜め前にある椅子に深く腰掛けた。

「お忙しいところ、お時間を取っていただきありがとうございます」
「いいえ…貴女を待っていました。おそらく今日は少し長くなるのではないかとこの後の予定はすべてキャンセルしてあります」
「お加減のほうは…?」
「貴女が気にする必要はありません、では始めましょう」

そう言って楓はつくしの目をまっすぐに見つめた。
前回より顔色はいいように思えたが、あれだけ大きく見えた楓の姿が一回り小さく見えつくしは直視するのを一瞬ためらった。
しかし世間話をしに来たわけではない。覚悟を決めて口を開こうとすると

「決心されたのかしら」

そう先手を打ってきた。
よく見れば先日見せられた契約書の綴じられたバインダーがテーブルの中央に置かれていて、楓はそのバインダーを開こうとゆっくりと手を伸ばした。

「申し訳ありませんがその契約書は必要ありません」

楓は少し驚いたような表情を見せながらつくしを見つめ返した。

「と、言うと?」

つくしはバッグの中から2枚の紙を取り出して、大きく深呼吸しながら楓の目を見てしっかりと言った。

「概ね社長の仰る通りにすることに決めました。ですが、その契約書ではなく、こちらの作成した契約書に社長がサインをするという契約にさせていただきます。これがあたしの出した答えです」

印刷面を上にしてテーブルに置き、それを楓の目の前に滑らせた。
メガネをかけ直して書類を手に取り一字一句見逃さずにつくしの用意した書類を眺めた楓は、ふぅと息を吐いた後に暫く目を閉じて考え事をしているようにも見えた。
そしてゆっくりと目線をつくしに戻す。

「本当に構わないのね?」
「はい。道明寺…司さんとは5日後の15時をもって完全に別れます。そしてその後一切個人的な接触はいたしません。そして司法試験を突破した後、アメリカに渡って現地の弁護士資格を取得するための勉強を始めます」
「ほかに特記すべき事項は?」
「今年、必ず自力で司法試験を突破したあと英徳大学を自主退学して司法修習に入ります。その後はこちらにお世話になります。ですが、ここに記載した通り道明寺…司さんとは私的な接触を明日からの休暇後より一切しません。そして法の立場から道明寺を支えることができるよう、努力します。つまり…」
「司の愛人にはならない、ということね」
「そうなります」

楓は少し驚いたような表情でつくしを見つめた。すぐに元の表情に戻ると

「さすが法律家のタマゴね。いいでしょう、この契約書に私がサインをします。この内容に後悔なさらないというなら…我々に異論はありません。」
「ありがとうございます」

楓はペンを取り出し、慣れた手つきで2枚の書類にサインをする。

「自力で司法試験を突破して、司の愛人にもならないという、こちらが提示したものよりも貴女にとって不利な契約を敢えて結ぼうとする理由を是非お聞きしたいわ」

つくしは一瞬ためらったが、ごくりと唾をのみ込んで一気に言葉を発する。

「まず、そもそも日本の司法試験には最初から自力で合格を目指すつもりでいました。ですから自分のペースで進めたい、ということが理由です。そして…」
「…」
「彼のことは、愛しています。でも、いくら自分に言い聞かせてもあたしには誰かの夫となった彼を愛することはできないという答えしかでませんでした。それならいっそ全く関係のない状態で彼と会社を支えたい。そのためにはアメリカに渡る必要があり、今のあたしにその経済的な余裕はない。ですから、アメリカ行き以後はこちらにお世話になりたいんです」
「おそらくその選択は貴女にとって一番難易度の高い選択となるでしょう…ね。おそらく何も知らない司からの風当たりが最も強い」
「ええ、それを承知の上で契約をしたいんです。社長が望んでいるように、あたしにできることがあるのなら、彼を…会社を支えていきたいと思う、でも愛人にはなれません」

楓はしばらくつくしの目を黙ってまっすぐ見つめていた。
そして、何かを振り払うように

「すでに私はサインさせてもらっています。ですからこの契約書通りに進めていきましょう」

そう言って契約書の1枚をつくしに戻す。

「この休暇中、司がどこで過ごすかはこちらで調べさせましょう。社の者に5日後の15時、司だけを迎えに行かせます。この契約書の効力は5日後の15時より有効ということでよろしいわね?」
「はい、異論はありません」

楓に手渡された契約書の控えをクリアケースに入れてバッグにしまうと、つくしは立ち上がって楓を見つめた。

「どうか、1日でも長く生きて、自力で道明寺を支えてあげてください。もっと親子としての時間を持ってください。そして一人前になるまで逃げ出さないようにしっかりとあたしを監視しててください」

それだけ言い捨てると、楓の言葉を待たずに社長室を後にした。









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2 Comments

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2018/11/19 (Mon) 08:40 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

えー!!ダメダメダメ!!!
スリーさんがコメントリタイアしたら、私もリタイアするからね!ね!!

というわけでこんにちは。
つくしさん、決心しました。
もうね、花男の金持ちの世界ってある意味ファンタジーでなんでもアリって感じじゃないですか?
だって普通母親が息子を結婚させて、愛人とか黙認します??
私だったらキレますね。

お話のボリュームが少ないので、展開も遅くてジレジレしてしまってすまみません。
少しだけだけどもう少しだけ文字数増やすように意識はしてますんでお付き合いくださいね(o^―^o)ニコ

2018/11/19 (Mon) 15:00 | REPLY |   

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