20years 負けてたまるか! 中編 

バレてしまったものは仕方ないと、次の日からつくしはヤマアラシとマツトモジュン好きを隠さなくなった。
むしろヤマアラシの良さを理解できない司を非難さえするようになる。

「ねえ、つぐみ。ジュン君ならこんな風にムスッとした顔してないで、もっと美味しいって言って食べてくれるよね?」
「うん、アイダちゃんだってきっとママの料理食べればあたしにゾッコンになるよ!」
「なんでご飯も作らないアンタにゾッコンになるのよ…」
「えへっ」

家族で食卓を囲むことが復活したのはいいのだが、何かにつけてヤマアラシのメンバーと司を比較する母娘とでは居心地が悪くて仕方ない。
しかも愛してやまない妻が、アイドルとは言え息子ほど年の離れた若いオトコに入れあげているとなれば面白くない。

「うるせぇな、悪かったな、ムスッとした親父でよ!」
「うわっ、パパ拗ねてるっ!」
「拗ねてねぇよ💢」

家族からひとり孤立する理由はわかったが、こんな状態になるなら孤立したままのほうがよかった、と司は本気で思っていた。

「ねぇママ、ファンクラブ通信でさぁ」
「オイちょっと待てっ!ファンクラブにまで入ってんのか?」
「当然でしょ。お兄ちゃんと可奈ちゃんと、あ、そうそうパパ名義でも入ってるから全部で5口入ってるよ!」
「なんだと!勝手にオレの名前を…」
「だってさ、ファンクラブ会員、200万人超えなんだよ?毎年年末年始にやるコンサートだって、ファンクラブに入ってなければ応募する権利すらないに等しいんだよ?!」
「そうよね…なんとか今年はふたりで行きたいよね」
「お、オマエら…」
「ねぇつぐみ!そういえば今日って…」
「アッ!」

そしてふたりはそれぞれのスマホをスクロールしだし、ふたり同時にため息をつく。

「「はぁ…もう…イヤ…」」

当然司には何が起きているのか理解不能で、当然興味もない。
しかし妻と娘の落胆ぶりがあまりにもひどい有様で、黙っていることが罪のように思えて聞いてみる。

「なんだ、どうしたんだよ」
「はぁ…全滅だわ」

どうもつぐみよりもつくしの落胆ぶりのほうが大きく感じる。よく見れば涙目になっていて、この世の終わりのような表情だ。
未だかつて妻のこんな表情は見たことがなかった。

「おい、どうしたんだ?話してみろよ」
「司に話したって…ねぇ…」

その言いぐさについカチンと来てしまった司は、つい大声を上げて

「なんだと?人が何事かと心配して聞いてるってのに、オレに話しても仕方がないだと?オレ様を誰だと思ってるんだ、今まで不可能をどれだけ可能にしてきたかオマエだって知ってるだろ?」
「知ってるわよ!でもどうにもならないことだってこの世の中にはあるのっ!」
「言わせておけば…!じゃあ言ってみろ!どんな望みだか知らねぇが、叶えてやろうじゃねぇかっ!」

売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだ。
つくしとつぐみは目を合わせ、ニヤリと笑うと呟いた。

「武士に二言はないわね?」
「オレは武士じゃねぇが、撤回なんかしねぇぞ」
「つぐみ、聞いたわね?」
「うん、この通り、録音したから証拠もあるよ」

つぐみはスマホをタップして、『どんな望みだって…』という司の声を録音したものを再生する。

「じゃあさ、ヤマアラシのライブチケット、どうにかして手に入れてきてね」
「うっ」


******


「なあ翼、ヤマアラシってアイドル知ってるか?」
「え?知ってるよ。今日本一売れてるアイドルじゃなかったっけ?」
「コンサートのチケット、簡単に取れないって本当なのか?」
「俺もネットの受け売りだけど、高額転売が問題になったりとかかなりのプラチナチケットみたいだよ」

司は思っていた。
アイドルは偶像であり、自分に言わせればテレビの中で歌って踊るキャラクターだと。特につくしが自分以外の男に興味を示すなどもってのほかだが、ゆるキャラを好きでいるのと同じというレベルであれば、なんとか我慢できた。

「父さん、ヤマアラシのコンサートチケット、欲しいの?」
「オレじゃねぇよ💢なあ翼、何とかして手に入れる方法ないのか?」
「さあね、ひと昔前はネットオークションとかで法外な金額での取り引きがまかり通ってたみたいな話を聞いたけど…今はそういうの厳しいって話だし。親戚一同の名前を使ってファンクラブに入るとかなんとか…それでどうにかなるもんじゃないの?」
「知ってたか翼、オマエ…自分がヤマアラシのファンクラブ会員だってこと」
「え…それってまさか…」
「ああ、そのまさかだ。つぐみと…つくしがやりやがった…」
「なんだって?母さんが?!」
「ああ、ちなみにオレも可奈も入ってるぞ…多分来年には子供達の名義で3口分追加だぞ、オマエの家」
「マジかよ…」

翼は頭を抱えてしまう。

「それで…?今年のコンサートのチケットをどうにかしろって?」
「そういうことだ…」
「そんなの無理だろ?」
「諸事情から無理にでも手に入れなければならなくなっちまった、お手上げだ、助けてくれよ翼…」

今度は司が頭を抱える番である。

「そんな無茶な…。どうにかふたりを説得して諦めさせないと」
「それが…」

昨夜の出来事と証拠をしっかりとつかまれている事実を翼に話すと、翼は盛大にため息をついた。

「何やってんのさ、父さんともあろう人が…。ツテも何もないんでしょ?」
「ああ、皆無だ…」
「もう…本当に何やってんだよ…」
「頼む…助けてくれ」

これほど困っている父を見るのは初めてのことで、翼も気の毒になっていた。

「誰かその方面に明るい人がいるかどうかをまずあたってみるしかないだろ?誰かいないの?」
「わからねぇな…昔ならともかく…」
「俺もあちこち当たってみるから、父さんも誰かに聞くくらいの努力はしなよ」
「なんとかやってみる…」

翼は思う。
なんて頼りのない大黒柱なんだろう、と。

ところが意外にも父の行動は翼よりも数倍早かった。
数分後には手あたり次第ヤマアラシのチケットを入手したいと拡散し始めた。
それも社内メールを使って。

これには社員一同驚いたわけだが、さらに驚いたことにFC加盟店のオーナーにまでメールを送り付けた。
どういうことなのかという問い合わせが多数来たのは当然だが、その対応に追われたのは当然翼である。
山のような問い合わせメールや電話の対応をしている自分がどれほど情けないかを痛感せずにはいられない。









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2 Comments

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2018/11/01 (Thu) 07:35 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。返信遅くなりました。

書いたのを改めて読んでみたんだけど、司の家庭であれば、DVDじゃなくてブルーレイなんじゃ?(笑)
しかも司レベルならば、ツテなんていくらでもありそうだし…しかも一番いい席💦
まあその辺はツッコミ入れないでくださいって感じですね(笑)

さて、明日はお祭りも最終日でこの短編も最終話。
スリーさんの予測はどれだけ当たるのか?
簡単に当たっちゃうような結末にはしてないつもりなんですけど、もし当たっちゃったらどうしよう(・・;)

とにかくお楽しみに(o^―^o)ニコ

2018/11/01 (Thu) 22:42 | REPLY |   

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