リオデジャネイロ狂想曲 20 

「銀メダル、おめでとうございます」
「ありがとうございます…」

つくしがメダルを取ったことで、日本のテレビ局からインタビューされたり番組出演の依頼が殺到して少し疲れもたまっていた。
早くホテルに戻りたかったし、テコンドーの状況も気になった。

「牧野、大丈夫?」

類が心配そうに声をかけてくるのだが、つくしはなんとか普通を装って頷いた。
あちこちから表彰台に上った気分はと聞かれるのだが、嬉しい気持ちはもちろんある。
ただ中央に掲げられた中国の国旗と、それを見ながら涙を流す中国選手、そして会場に響き渡る中国国歌。
出来れば日の丸や君が代をこの目で見て聴いて日本へ帰りたかった。
前日の結果がもっと良ければ…。
それは過ぎたことで実力のうちである。

「ねえ花沢類…」
「ん?」
「アタシ、東京でもう一度表彰台に乗りたい」

類は少し時間をおいて、静かに喋り出した。

「牧野なら一番高いところに上れるよ。俺も今回はさ、全然ダメだったけど東京でまたチャレンジしたいんだ」
「うん、また一緒に代表になろう!」

普段感情を表に出さない類の言葉は重い。
ふたりはニッコリ笑い合い軽くハイタッチをして東京での活躍を誓い合った。

「で、そろそろじゃない?道明寺司の試合」
「え?」
「気になるんでしょ?」
「気になるっていうか…ほら、ケガさせちゃったし…」
「それだけ?」

珍しく痛いところをついてくる。
実際次の準決勝がメダルへの分岐点になる。勝てば銀メダル以上は確実だし、ここで負ければ3位決定戦で勝たない限りメダルはない。
しかも直前に見たケガの状態は良いとは言えない。

「でも、あの人は絶対に勝つよ」

つくしは軽く唇に触れ、さっき聞いたセリフを思い出した。

「たとえ脚が千切れてもね…」


***


周囲の声は何も聞こえない。
何も考えず、ただ前にいる相手を倒すことだけを考える。

司は目の前にいる対戦相手を睨みつけた。
相手は世界ランキングでは司よりも上だが、直接対戦したことがないので実質どちらが強いのかは戦ってみないとわからない。
ただしこれまでとは全く違う戦いになるということはわかっていて、そのために雑念を振り払い試合に臨む。

試合開始の合図とともに、司は積極的に相手に向かっていく。
技を決めるためには適度な間合いが必要だが、同時にそれは相手にも同じことが言え決して油断はできない。
2分間を1ラウンドとして3ラウンドを戦い勝敗を決めるわけだから時間的にはそれほど長くはない。しかし戦っている人間にしてみればオリンピックという大舞台での6分間はとてつもなく長く感じるのであった。

一瞬相手が司の猛攻撃に怯み、足を取られてふらついた。

―今だ!

司はその一瞬を見逃さず、相手の側頭部に後ろ回し蹴りを打ち込む。

すると相手はフラフラしてそのまま床に倒れ込んだ。
レフェリーが顔を覗き込んでカウントを始めるが、体勢を崩した上に司の回し蹴りがまともに入り意識が朦朧としている状態である。

レフェリーはカウントをやめて司の勝利を宣言、道明寺司のメダル獲得は確定した。

「やった!」

試合の様子をタブレットで観戦してた飛び込みチームの4人も、司の勝利に喜んだ。
ところがつくしの表情が曇っているのを類は見逃さなかった。

「どうしたの、牧野」
「脚…」

不安そうにそれだけ言うと、つくしがそれ以上口を開くことはなかった。









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2 Comments

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2017/08/15 (Tue) 07:05 | REPLY |   

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2017/08/15 (Tue) 09:04 | REPLY |   

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