Beautiful days

花より男子を愛する自称永遠の乙女の妄想  ※現在、ブロとも申請を休止中
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8月になれば

「早く行ってきなさい!行けばひとつ宿題が終わるじゃないの」

夏のある暑い日、つくしはいそいそと出かける準備をしていた。
近くの児童館で小学校低学年向けの絵本の読み聞かせがあり、それに参加すれば読書感想文が書けるという母の提案からだった。

読み聞かせの始まる時間が迫り、玄関で靴を履く。

「いってきまーす」
「気を付けるのよ!」

父の会社の社宅を出ると、日差しの強さと湿度で一気に汗が噴き出す。
母が持たせてくれた水筒に入っている麦茶を一口飲むと、児童館に向かってつくしは歩き出した。




 8月になれば




学校の友だちがたくさん来ていると思ったのに、児童館には子供の姿があまり見えない。
みんなどこかに旅行にでも行ってしまったのか、と思ったが構わずに読み聞かせの行われる『第1会議室』に足を踏み入れた。

そこにはつくしと同じかもう少し年上の男の子が数人パイプ椅子に腰かけていて、その背後には数人スーツ姿の大人が立っている。
その異様な雰囲気の中つくしが並べられたパイプ椅子の最前列に腰かけると、すでに座っていた隣の男児が不服そうに自分を睨んでいるのが見えた。

「オマエ庶民だろ?オレ様の隣に座るなんて生意気だぞ」

つくしはその一言にカチンときたが、相手の髪型があまりにも強烈すぎて笑いを堪えるのに必死だった。
『庶民』の意味を理解できていないつくしは、その男児を無視して読み聞かせが始まるのを待った。

少しすると一人の中年女性が部屋に入ってきて、

「それじゃ、読み聞かせを始めるね」

と絵本を開いた。

「あ、その前に…」

女性は開きかけた本を膝の上に伏せると、

「今日は何の日かわかりますか?」

そうつくしたちに声をかけた。

「知らねーよ」

隣の男児がそう言った。

そう言えば朝、テレビで広島県で昔の悲劇をナントカ…というニュースをやっていた気がして、必死で記憶を手繰り寄せた。

「えっと…昔…なんとかっていう大きな爆弾が広島県に落ちて…たくさんの人が亡くなった…日だと思います…」
「そう。よく知ってるね。昭和20年の8月6日、広島県の広島市というところに一発で何万人もの人が一瞬にして死んでしまう大きな爆弾が落ちたの」

確かにニュースでもそんな話をしていたように記憶していたつくしは、興味深くその続きを聞こうとしていた。

「ケッ、そんなマエオキいいからさっさと始めろよ」

隣の男児はつまらなそうにそう声をあげた。

「ちょっと、静かに聞きなさいよ」

我慢できなくなったつくしは隣の男児をたしなめた。

「うるせーな、生意気なんだよ」
「そうね、確かに昔の話であなた達には関係ないと思うかもしれないけど…」
「カンケーないね」
「でもね、これから話すお話は、あなた達よりも少しお兄さんのお話なのよ。つまらないと思うかもしれないけど、とてもためになるお話だから聞いてね」

少し悲しげな表情で女性は本を読み始めた。


***


ズルッ…ズズズ…

あちこちで鼻をすする音がする。
それは物語の結末があまりにも残酷で悲しいものだったからだ。

つくしも悲しくてボロボロと涙を流していた。

少し気分が落ち着いてきた頃、ふと隣を見ると生意気なことばかり言っていた隣の男児が肩を震わせ、涙を堪えている。鼻は真っ赤で目も少し充血しているように見え、今にも泣き出しそうだ。

「アメリカ人、ムカつくな。オレ様が同じ爆弾をいつか落としてやる」

いきなりそう言い捨てた。

「あらあら、強い子ね。でもそんなこと言っちゃダメよ。戦争のない世の中をつくる努力をしてほしいな」
「オレはアメリカをブッ潰すことくらい簡単なほど金持ちなんだぜ?フクシューしてやってもいいって言ってんだ!」

女性は苦笑いすると

「復讐なんて怖い言葉は使わないでほしいわ。それよりもみんなには大人になったら愛する家族と一緒に広島に行って祈りを捧げてほしいな」

と言った。



―20年後―



今年も8月はやってきた。

結婚してから毎年8月6日は広島へ来て祈りを捧げている。
しかし今年はそれが叶わず、15日に千鳥ヶ淵へやってきた。

「大丈夫か?」
「ん?平気だよ」

隣で花束を持つ優しい夫の提案で、毎年8月は祈りを捧げる月にしようと決めた。
結婚してから今年で5回目。
去年までは広島の平和祈念公園へ行き、時間が合えば式典にも参加した。

「疲れてるなら今日はもう帰ろうぜ」

夫は妻をいたわりながらその肩を抱く。

「大丈夫だよ、きちんとお参りするって決めたんだし」

そう言って愛おしそうに大きく膨れ上がったお腹に手を添える。

結婚して初めての夏休みに、どこか行きたいところがあるのかとお互いに話し合うと、不思議なことに広島に行きたいと意見が一致した。
なぜ広島へ行きたいのか、という理由はお互いに知らないし不思議に聞こうとも思わなかった。

何かといえば海外に行きたがる夫が、広島で祈りを捧げたいと言い出したことを意外に思ったものだが、平和を願う気持ちがあるという優しさを知り、温かい気持ちになった。

「ねえ、こんな言い方するものなんだけど、アタシ達のご先祖様達が生きるか死ぬかの大変な世の中を、正しく導いてくれたから今があるんだよね」
「まあ、そういうことになるな」

そうだよ、と言わないところが何とも夫らしいと妻は微笑んだ。

「だからあれよね、アタシ達もこの子達やその先の世代が平和な世の中で生きられるようにしてあげなきゃいけないよね」

夫はその問いには応えなかったが、代わりに妻の手をギュッと握った。

「オレくらいに知名度があるヤツは、影響力もそれなりにある。有名になったからと浮かれてるバカもいるが、影響力があるからこそ発信しなきゃなんねーこともある」
「そうだね」
「それがなんなのかこれから考えなきゃなんねーな」

千鳥ケ淵戦没者墓苑の献花台に持ってきた花束を供えると、

「ここには海外戦没者の遺骨が眠ってる。来年は3人で広島だけじゃなく長崎や沖縄とかも行ってみようぜ」
「そうだね」

戦争の悲惨さに初めて触れた日から20年。
妻はこれまで平和な世の中を幸せに生きてこれたことに感謝し、ともに幸せに生きると誓ってくれた夫に感謝しながら祈りを捧げた。



~fin~



実は8月6日に予約セットしたつもりが、失敗して公開できなかったお話です。
お蔵入りしようかとも思ったのですが、少し手を加えて公開します。




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7 Comments

says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.08.11 22:09 | | # [edit]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.08.11 22:59 | | # [edit]
やこ says..."kachi様"
ビックリしました。
明日の朝の定時更新に予約したつもりが公開に💦

実は私、祖父が南満州鉄道の職員で母が引き揚げ組なんですね。
それが縁というかなんというか、この時代にはいろいろと思い入れがあり貴重な資料を目にすることもできています。
しかもどんどんエスカレートしてどんどんマニアックになっていくという(笑)
実は放送大学で少しだけ学んだりもしてました。

好みもありますし二次作品としてどうなのかとも思いますけど、今しか公開できないということで!
2017.08.11 23:10 | URL | #tKLq9Oy. [edit]
やこ says..."スリーシスターズ様"
うっかりミスで本日二度目の更新となってしまいました。
ああもったいない(笑)

そうそう8月はね、私にとっていろいろと思い入れがあるんですよ。
誕生日シリーズで言えば、父、旦那、潤くん(笑)
仰るように戦争関連と日航機墜落事故もそうですね。

日航機が墜落した時、墜落現場に比較的近い場所にいたのでよく覚えていて、いろいろ調べてたことがありました。
重いテーマですけど忘れてはいけないことなんですよね。

単なる二次書きが扱うものではない気がしますが、せっかく思い浮かんだので公開してみました。
2017.08.11 23:27 | URL | #tKLq9Oy. [edit]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.08.12 01:02 | | # [edit]
やこ says..."なあなあ様"
こんばんは、コメントありがとうございます。
一度でいいからメッセージ性のある作品を書いてみたいと思っていました。
本来なら6日に更新すべき記事だったのですけど…💦
8月に入ると終戦特集などNHKを中心に増えますよね。
どれを見ても心が痛くなります。
お隣の半島でも緊迫した状態が続いていて、その時代を生きたわけじゃないけどもしかしたら当時もあんな感じだったのかなと思ったりしています。
2017.08.12 20:58 | URL | #tKLq9Oy. [edit]
やこ says..."蘭丸様(拍手コメ)"
靖国神社、独身時代に一度連れて行っていただいたことがあります。
何と言うか言葉になりませんね。いろんな資料館に行きましたがどこへ行っても本当に辛くなります。
大和武蔵の引き上げはどうでしょうね。ふたつの船はあの場所がお墓なのかな、敢えて引き上げする必要もないのかななんて思ったりします。
おっと、マニアックになりすぎました(笑)
2017.08.15 01:21 | URL | #NdY1Sye2 [edit]

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