20years 父と娘の距離 6 完 

「大人しく隠居してりゃいいものを…」

デスクに置かれた報告書を見て司は呟いた。
そこにはすでにほとんどの金融機関から融資を断られていた生田病院が、唯一借り入れ可能だった会社からも融資を打ち切られ、病院を手放し手持ち資産の整理に入ったと書かれている。

DK商事

これが最後の砦だった会社なわけだが、実質的な経営者は道明寺楓、司の母親でありつぐみの祖母である。
第一線からは退き、表舞台には決して姿を現すことがないが他人の名義で金融業を営んでいるという話は業界内では有名な話。表向きは貿易会社だが銀行や信販会社で融資の受けられない企業に高利でカネを貸し付けるのが事実上の業務内容だ。

「あの世にカネは持っていけねぇぞ」

DK商事の経営者は西田正弘。
手となり足となって楓を支えた敏腕秘書の西田の息子だ。
司自身も楓とはもう何年も顔を合わせていないのだが、おそらく表向き会社を経営しながら父の代わりに楓の仕事を手伝っているのだろう。

きっと世界各国に張り巡らせている情報網を駆使して生田病院とつぐみの繋がりに辿り着いたに違いない。
ただつぐみの問題に楓が関与していなくても生田病院は時間の問題だったはずだ。
敢えて融資を打ち切る理由もない。

世間では、祖父母は無責任に孫を可愛がる、孫は祖父母に懐いてくれればそれでいい。司もつくしもそう思っているのだが、当の本人はなぜか滅多に孫たちの前に姿を現そうとしない。
切り捨てるべきものには容赦ないが、おそらく生田院長の家族への救済措置は手配済みなはずだ。
病院を手放すことになっても家族が路頭に迷うようなことはないだろう。

―オレも人のことは言えねーけど、お袋も相当なもんだな

不器用な愛情表現もここまでとは。
司は報告書をパタリと裏返すと、通常業務に取り掛かった。


***


「行ってきま~す!」
「おい、どこに行くんだ?」
「直と買い物」
「9時には帰ってくるのよ!」
「ハイハイわかりました」

道明寺家の休日の朝は平日よりも慌ただしい。
娘のつぐみは毎週のように友人と遊びに出かけるし、その様子を複雑な表情で眺める司。そしてその間に入って毎回ハラハラするつくしという構図である。

「もう、いい加減子離れしないさいよ、つぐみはもう大丈夫だから」
「大丈夫なわけねぇだろ!?GPSでも付けるか」
「絶縁されるだけだからやめなさいよ」
「絶縁…」
「それより今日は翼たちが来るから家にいてよね」
「翼が?しょっちゅう来てるじゃねぇか、たまには西門の家にもいきゃいいんだ」
「今日は特別なの」
「?」

つくしはニヤリと笑うと、自分のお腹をさすって今日がどれだけ特別な日であるかをアピールしてみた。

「なんだ、腹の調子でも悪いのか?」
「ハイハイ、そういうことにしておきましょうね」
「若いつもりでももう年なんだぜ?我慢しないで病院いけよ、翼に連れてってもらうのか?」
「病院に行かなきゃならないのは可奈ちゃんよ」
「?」

子供達の動向にはつくしと違って敏感な司だが、今回はどうもピンとこない様子である。

「『つ』の付く名前なんてもう打ち止めよね。侃のときだって大変だったのにまた辞書と格闘しなきゃなんないなんてこの年じゃ拷問よ」

さすがの司も気付いたらしく、

「なんだと!?3人目か?」
「みたいね」
「翼のヤツ、親を出し抜いて…」
「何よ出し抜くって…意味がわかんない」
「オイ、オレたちももうひとりくらいいけるよな?若い奴らに負けてなんかいられるかよ」
「はぁっ?」

リビングの掃除をしようと掃除機のスイッチを入れかけていたつくしは目を白黒させた。


「まさか…アンタ…」
「オイ、ちょっと来い!」
「バカッ!何考えてんのよ、無理に決まってんでしょ!!」

こうなるともう司は止まらない。
ジタバタするつくしを軽々と抱え上げ寝室へと連れて行く。

「ぎゃーっ!!このヘンタイっ!!」


***


「ねえ、絶対出直したほうがいいわよね?」
「勘弁してくれよ…」

どれだけチャイムを押しても応答のないマンションの鍵をあけ、中に入った翼と可奈は、部屋の奥から聞こえてくる両親の騒ぎを聞いて頭を抱えていた。

「兄弟増えるんじゃない?翼くん」
「冗談キツイって…」

妹でさえ21歳年下なのに、39歳も年下の弟か妹など考えられない。
ましてや実現してしまえば自分の子供と兄弟が同級生になってしまう。
仲のいい両親は翼にとって目標とする夫婦の形だが、それにしても限度があると思わずにはいられないのだった。


~fin~




6日間お付き合いくださいまして誠にありがとうございました。
ラブシンのストックが少し出来たので20yearsの番外編を書いてみました。

還暦を目前にしたつかつくとその家族のお話ですが、受け入れられているのかどうか不安です。

スーパー読者のS様、リクとはすこーし違う感じになってしまいましたがお許しくださいませ❤

明日の18時からは同じくリクエスト作品を数話お届けします。
どのシリーズでもないお話なので、私もドキドキ…。結構長引いております。
長さは今回と同じくらいかな…。

お読みいただければ嬉しいです!









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5 Comments

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2017/05/22 (Mon) 18:21 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは。
人の希望をカタチにするって難しいですねぇ。でも頑張ってみました!
いつまで経っても仲良し夫婦なのは憧れますね。ええ憧れます。

今はちょっと書く意欲がアップしてる感じですが。これからいよいよ夏到来で、どこまでやれるのやら…
死なない程度に頑張ります❤

2017/05/22 (Mon) 21:51 | REPLY |   

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2017/05/23 (Tue) 07:40 | REPLY |   

やこ  

かなた様

こんなご近所がいたら…
考えたこともありませんでした!!
ちょっと怖いかもですけど、羨ましいかなぁ。
こちらこそお付き合いくださりありがとうございました!

2017/05/23 (Tue) 21:52 | REPLY |   

やこ  

じゅんこ様(拍手コメ)

コメ返遅くなり申し訳ありません。
このまま進んで行くと、老人ホーム編とかに突入しそう…。
いや、書けませんそんなの(笑)

2017/05/23 (Tue) 22:04 | REPLY |   

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