20years 父と娘の距離 5 

翼とつぐみは司の運転する車に乗って自宅マンションまで戻ってきた。
いつもならチャイムを鳴らせば玄関先で迎えてくれる母が鍵すら開けず、いるはずのリビングから出てこようとしない。
代わりに3人を出迎えた可奈が

「おかえりなさい、無事に解決したみたいね」

と言うのだが、3人とも表情は複雑でとても問題を解決してきたようには見えなかった。

「紬と侃は?」
「うん…疲れて寝ちゃった。今日は泊まらせていただくことにしたの」
「そっか…」

司が無言のままリビングのドアを開けると、ソファに座ってニコリともせずにテレビ画面を見つめるつくしの姿が見えた。

「翼、お疲れ様。つぐみ、大丈夫?」
「ママ、いろいろごめんなさい…」
「解決できればいいのよ。翼も迷惑かけてごめんね」

すると向かい合わせになっている片方のソファにドカリと司が腰を下ろす。

「おい、オレには何も言うことはねぇのか」
「ない」
「なんだと?」
「じゃ、なに?さすがカリスマイクメンね、ダメな母親でごめんなさい、とでも言って縋り付けば満足するわけ?」
「ママ…それはさすがに…」
「いいのよつぐみ。アンタはお風呂に入ってもう寝なさい。明日の準備はできてるんでしょ?」
「できてるけど…」
「つぐちゃん、そうさせてもらおう、私たちも休ませてもらうから」
「でも…」

助けてもらった父親に対し、何もできないつぐみは可奈に促されてもどかしそうにリビングを出た。

「翼ももう休んで。巻き込んでごめんね」
「母さん、冷静にね」

トラブルさえなければ恥ずかしくなるほど仲のいい夫婦である。どちらかが冷静になってきちんと話し合いをし、仲直りできることに賭けた。

静かにリビングを出ると大きくため息をつく翼だった。

「それで?まだ何か用があるの?」
「なんだその言いぐさは、娘がロクでもないオトコに騙されかけたんだぞ?オマエそれでも母親か?」
「だって母親失格なんでしょ?しっかり解決してくれたならそれでいいじゃない」
「なあ、少しオレも言いすぎた。機嫌直して冷静になってくれ」
「何があったのよ…」

司が少しだけ下手に出たこともあって、つくしも少しだけ聞く姿勢を見せた。
そのまま司が、つぐみが付き合っていた男に騙されそうになったことや、先ほど起きたこと、おそらくこれから起きるであろうことを説明すると

「そう…ショックだったでしょうね、つぐみ」
「フォローしてやってくれ」
「そうだね、気を付けるよ」

それからしばらく沈黙が続いたのだが、つくしが意を決して口を開き

「事情はわかったけど、あの言い方はないんじゃない?ふたりとも環境は違うけど、育児を疎かにしたことなんてないし、難しい年ごろだってわかってるから適度に距離を置いて見守ってるのに…」
「そっくりなんだよ」
「え?」

反論してくるかと思いきや声を落として司が呟く。

「自由奔放な性格がオレにそっくりなの認めるが…簡単に人を信用してオレに心配かけるところが…高2のオマエにそっくりなんだよっ!しかも成長するたびに顔もそっくりになってくし、親子そろってオレを心配させて何が楽しいんだ」
「はぁ…?」
「つぐみを見てるとオマエと重なって仕方ねぇんだ」

つくしは司の本心を聞いて大きな目を更に丸くしたのだが、自分と娘を重ねて見ていたことが可笑しくて呆れて苦笑いしてしまう。

「高2の時のアタシだって、ロクでもないオトコに引っかかったけど」
「なんだと!?オレは…」
「そりゃ自分で育ててるんだしつぐみがアタシに似てくるのは当然よ。それに昔はロクでもないオトコだったけど今は誰よりも家族を大切に思ってる父親がついているんだもん、間違った道に行こうとしてもつぐみは大丈夫だよ」
「オマエ…いちいちひと言余計だな…」

それだけ言うと司はつくしの隣へ移動し、いつものようにつくしの肩を抱き寄せた。

「傷つくようなこと言って、悪かったよ」
「どうせアタシが会社からいなくなった環境に順応できてないんでしょ?」
「使えねぇヤツ等ばっかだからな」
「ダメだよ、慣れなきゃ」
「なあ、やっぱ戻って来いよ」
「やだよ、そろそろ休ませて…」
「チッ」

舌打ちする音がやけに大きく聞こえるのは司の顔が異常に近いからだと気づいたつくしは

「ちょ、いい年してこんなとこで何やってんのよ、今日は翼たちもいるのよ!?」
「関係ねぇよ、今更だろ」
「ついさっきつぐみが年頃だとかそういう話したばっかりじゃん、お願いだからリビングでこういうのは…」
「うるせぇ…」
「んんっ」

有無を言わさずに唇を奪い、その勢いでソファにつくしを押し倒す司であった。


***


授業が終わって学校を出ると、門の前に場違いな格好の男がつぐみを待っていた。
司がいた頃は生徒を送り迎えする車の列でひっきりなしだった英徳学園も、今では徒歩通学の生徒も多くつぐみが歩いていてもそれほど不自然ではなくなっている。

「つぐみ…」

声をかけられて振り向くと、下校時間だと言うのに私服姿の隼人がいた。
そもそも隼人は永林学園の生徒で、この時間帯に英徳にいるはずがない。
先日の出来事をまだ引きずっていたつぐみは、当然笑顔で彼に近寄れるはずもなく

「何か…用?」

冷たく応じるのが精いっぱいだった。

「その…この間は…悪かったよ」

クラブでの出来事以前はつぐみに優しい好青年だった隼人。
本心を隠していたとはいえつぐみはそのやさしさに癒されどんどん惹かれていた。そしてあの仕打ち。父がいなければ騙されて大切なモノを失うところだったと思うと、とても笑顔を返す気分にはなれない。

「もういいよ、見抜けなかったあたしも悪いし…」

次に会ったら殴りつけてやろうかと思ったこともあったが、いざ目の前にいる男を見ても何の感情もわいてこなかった。

「実は、親父の病院が人手に渡ることになって…永林をやめて都立高校に編入することになった」
「え、そうなんだ…」

司や翼の言う通り、あまりいい状況ではなかったようだ。

「今までテキトーにスネかじって生きてきたけど…まぁ医者にはなりたいし、とりあえず親の力はもう頼れないから自力でなんとかするしかない」
「…」
「こないだは情けない姿を晒したし、とりあえず今日は決意表明?もし今後どこかで会うことがあった時に、いい男になってるからビックリするなよ、って言いに来たってわけ」
「そう…」
「それじゃ、元気で」

それだけ言うと隼人はつぐみに背中を向けて歩き出した。
夢中になっていた時に見ていた背中とも、本心がわかった後に見た背中とも違う。
ぬるま湯に浸かって育ったお坊ちゃん。短い期間とは言っても都立高校に順応できるのかわからないし、父親の後ろ盾もなく医者になれるのかもわからない。

ただ、つぐみはその背中に声をかけずにはいられなかった。

「あのっ…大変だと思うけど…負けないで…!」

その声に隼人は驚いたような表情で振り向いたが、すぐにまた前を向いて歩きだした。









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6 Comments

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2017/05/21 (Sun) 18:29 | REPLY |   

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2017/05/21 (Sun) 20:44 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

えー、楽しんでいただけているでしょうか。
結構勢いで書いた作品ですが、果たして面白いのかどうなのか…(笑)

つぐみの件が解決したのでもう終わり、でもいいんでしょうけど、夫婦喧嘩は継続中。
ハイ仲直りしなければなりませんからね。でもって安定の押し倒し(・∀・)ニヤニヤ
もう勝手にしとくれよ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ

架空の家族ですけどやっぱり思い入れがありますからね、どんどん幸せになってくれれば、私のテンションもアガります。

ブロとも申請の件ですが、これも人によって事情は様々ですよね。
今は簡単にスマホで閲覧可能ですけど、登録しなきゃダメなの?って思われる人もけっこういると思うんです。
私も別に用がなければ登録なんてしませんしね。

以前限定記事をパスワードで制に移行しようとしたこともあるんです。
だけどね、すでにその時点で150人くらい面倒な手順を強いていた読者の方々がいらっしゃるわけです。
スムーズに申請出来た方ももちろんいらっしゃるでしょうけど、とても苦労して辿り着いた方もいらっしゃるんですよね。
それを考えると、やはり簡単にパスワードに移行できないというのが現在の状況なんですよ。

やるとしたら現在のブロともさんにはお教えして、ブロともではない方には解けるかどうかもわからないパス?(笑)
とりあえず現状維持で行こうと思います。
昨日の申請は本当に多くいただきまして、私もビックリしました。
それだけ多くの方がエロ…もとい楽しみにして下さってるんだなぁと感激しております。
戻ってきてよかったぁ(笑)

2017/05/21 (Sun) 22:38 | REPLY |   

やこ  

kachi様

こんばんは!
翼が主人公のお話っていくつか書いてますのでなんとなーくキャラも定着しつつあるのかな?と思ってます。
今回kachiさんもご存知のS様にリクをいただきましてつぐみ中心のお話を書いてみた次第です。
高校2年と言えばまさに原作のつくし!溺愛する娘ともなれば司は大変なことになるであろう…

まあそんなことを表現してみたわけです。
隼人は生田斗真と息子の友だちを合体させたザコキャラ(おい)で今後出てくることはないと思いますが、まるっきり嫌な奴で終わらせないように心がけました。

2017/05/21 (Sun) 22:42 | REPLY |   

やこ  

しろ様(拍手コメ)

申請いただきありがとうございました。無事に読めたとのことで私も安心しております。
そうそう、二人はなんだかんだとラブラブじゃなきゃね!
拙いお話ばかりですしたいしてエロくもないけど、楽しんでくださいね!

2017/05/21 (Sun) 22:47 | REPLY |   

やこ  

ともみ様(拍手コメ)

カッコいいけどちょっとヌケてる。
そんなパパが欲しかったという願望がそのままそっくり出てますかね(笑)
いつもコメントありがとうございます(^▽^)/

2017/05/22 (Mon) 15:45 | REPLY |   

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