20years 幸せになろう 3 

「あんた…なにしてんの?そんな格好して」

勢いよく家を飛び出した翼だが行くところは限られている。
当然美佐子の家なのだが、今日は翼も少し躊躇した。

しかも昼間雲ひとつなかったのに玄関を開けると雨がザアザアと音を立てて降っている。
真っ直ぐ美佐子の家に向かうのをためらい意味もなく走り続けたせいで雨と汗でびしょ濡れだ。

肩を上下させて呼吸をすると少し胸が痛むし寒気もある。
熱があるのかもしれないと思いつつ美佐子の家のチャイムを押した。

「なんか飲ませて」

美佐子が持ってきたタオルで軽く頭を拭くと、ソファに座り寝転んでみる。

ゆっくりと目を閉じた瞬間、翼は意識を手放した。




「翼?目が覚めた?どう?気分は」

慣れ親しんだ母親の声が聞こえた。

―おかしいな、俺は美佐ちゃんの家にいるはずなのに。さては美佐ちゃん、ソッコー母さんにチクったな?―

翼はゆっくり目を開けると周囲を見回した。
薬品独特の匂いがして、ここが病院だとわかるまで時間はかからなかった。

「あれ…?俺」
「肺炎の一歩手前だって。全くなにしてんのよ、アンタ」

左の腕には点滴の針が刺さってチューブが伸びている。
ズブ濡れで美佐子の家まで行ったことは覚えているが、その後の記憶が全くない。

「雨が降ってるのに家を飛び出すなんてどうかしてるよ!美佐子さんから連絡もらって駆けつけてみれば熱も高いし呼吸もおかしい!急いでここへ連れてきたんだから!」
「母さん、声デカイよ…」

そう、ここは総合病院の病室で、カーテンで仕切られてはいるものの隣や前には他の入院患者が寝ているはずだ。

「司ったら個室にしろとか言うんだよ!ニートのくせに贅沢言うなって殴ってやったわよ」
「え…」

翼はハッとして、父親と価値観の違いから家を飛び出したことを思い出す。

「で、そのニートはどこにいるのさ」
「さあ、待合所か廊下じゃないのかな」
「そう…」

今となれば少し言い過ぎたかもしれないと思っていたりする。
大財閥の御曹司としてなに不自由なく育ってきた男にとって翼の身の回りのものは粗末に見えただろう。
勝手に処分されたことに対しての怒りは今でも変わらないが、自分ももっと言い方があったんじゃないかと思いはじめた。

「ごめん、アタシも朝から吐き気が凄くて下で点滴してもらってくるから。なんかあったら産婦人科外来にいるから看護師さんに相談してみて」
「うん、わかった。ごめん、心配かけて」
「何言ってんの、今更でしょ」

苦笑いしながらつくしは病室を出ていった。

―肺炎の一歩手前とかダサすぎ―

呼吸はそれほど辛くはないが、熱はまだ少し高めのようで布団を被りなおすと翼は目を閉じた。

すると病室の仕切りになっているカーテンが静かに開く音がして、翼は自分のベッドに誰かが近づく気配を感じる。
そうっと薄目を開けて見てみると、想像通り家を飛び出す原因を作った男が自分を見下ろしていた。

―何しに来たんだよ―

正直言って今の翼には会いたくない男だ。

「起きてんのか?」

男は静かにつぶやくが翼は目を閉じたまま返事をしなかった。
司は翼が眠っていると思い込んだ様子で、椅子に腰かけると座り心地が悪いだなんだとブツブツ言いながら体をこちらに向けた。

そして翼の目の前で手をヒラヒラさせて、翼が眠っていることを確認して一息つく。

「悪かったな、勝手にオマエのものをいじって。きちんと元の状態に戻しておいたぜ」

翼は布団の中で拳をギュッと握りしめた。

「あの安っぽい家具にそれほどまで思い入れがあるとは思わなくてよ。オレの悪いクセだな…」

寝ていると思っているとはいえ素直に謝られると翼もどうしていいかわからない。とにかく必死で寝ているフリをして司が去るのを待とうと覚悟を決める。

「心を開いてくれたと思ってただけに、正直参ったぜ。オマエに父親ヅラすんなって言われたみたいでさすがに凹んだんだぜ」
「これからは思ったことを口に出したりすぐ行動したりするのは控えるようにすっから…ちゃんと親子になってくれよ、な?翼」

司は翼の頭をそっと撫でると、少し切なそうな、それでいて照れくさそうな表情で見ていた。


***


「すみません、お騒がせしました、お世話になりました」
「お世話になりました」

つくしとともにナースステーションで頭を下げ、総合受付で会計を済ませた。

「あちゃー、2日入院でも結構すんのね、出産費用大丈夫かな」
「ごめん、バイトして返すよ」
「ハイハイ、頼りにしてますよ」
「で、あの人は?」
「『あの人』だなんて…まだそんなこと言ってる。意地っ張りなとこ、誰に似たのよ」

翼は『あんただよ』と言いたいのを必死で堪える。
どうやら司は家でふたりの帰りを待っている様子だ。バスに乗って帰ろうと言う翼を無視してつくしはタクシーに乗り込んだ。

「退院と言えば横づけタクシーでしょ」
「何その意味のわからない理由」
「アタシも一応妊婦なわけ。若くないんだしタクシーで帰りたいのよ」
「そうだね、ごめんごめん。気分が悪いって昨日は言ってたけど大丈夫なの?」
「うん、今日はスッキリだね。ホントこればっかは謎」

まだ平らなお腹をさすりながら照れ笑いを浮かべる母親は幸せそうだ。

「ねえ翼、あの人はアタシ達とは全く異次元から来た人なの。だからこれからも今回みたいなことがあるかもしれない」
「俺もそんな気がする」
「でもさ、時間かけて家族になっていこうよ。アタシ達のせいで翼には苦労かけちゃってるけどさ、悪い人じゃないんだ」
「うん、わかるよ」

つくしはそれ以上何も言わなかった。代わりに翼は

「ねえ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、体調平気ならたまにはデートしない?」









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8 Comments

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2017/04/25 (Tue) 07:49 | REPLY |   

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2017/04/25 (Tue) 08:16 | REPLY |   

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2017/04/25 (Tue) 22:43 | REPLY |   

やこ  

じゅんこ様

ただいま❤
だいぶ落ち着いて参りましたので戻ってきました(o^―^o)

今回のお話は実はうちの夫と息子がモデルです。もちろんコチラの親子とは違ってビジュアルは壊滅的ですけど(笑)
おかげ様でこのシリーズは皆さん喜んでいただいていますし、途中で放置していたもののひとつなのでまずは!と思って復活の第一歩に選びました。
このシリーズもですね、どの年代を書こうかと毎回頭を抱えます。ほぼつかつくは脇役でオリキャラメインのお話なのでね…。

毎日更新できればいいのですが、無理せずマイペースで行こうと思います。

コメントありがとうございました(^▽^)/

2017/04/25 (Tue) 23:13 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

こんばんは!いつもこめんとありがとうございます❤

どうも私のお話はコメディ寄りになってしまい、オチや笑いをちょいちょい入れたくなります。

明日は最終話になります。これが終わったらいよいよラブシンに取りかからなきゃ…💦

2017/04/25 (Tue) 23:14 | REPLY |   

やこ  

kachi様

こんばんは!

もうあらゆるネタというネタはすべて自分アンドネットから引っ張ってきております。
肺炎ネタ某芸能人の闘病ブログをヒントに思いついたものですし、父子のケンカネタは我が家のふたり。
極めつけのつわりネタはモロ私の経験です。
妊娠8か月までずーっとつわりが続いて、逆に体重が増えずに辛かったですね。9か月に入ってから急に気分がよくなり、調子に乗って食べまくってたら激太りΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン母子手帳に「体重以上増加」と書かれております。
10数年前の懐かしい思い出です。

2017/04/25 (Tue) 23:26 | REPLY |   

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2017/05/01 (Mon) 23:49 | REPLY |   

やこ  

さとぴょん様

大変ご無沙汰しております。
お変わりありませんでしょうか??

っていうか類誕イベで少しだけ絡みましたね、雅紀が(笑)

20yearsシリーズもそろそろネタが切れて参りました。
ラブがもうちょいほしいところですが、ラブ注入お願いいたします。

2017/05/02 (Tue) 10:20 | REPLY |   

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