ラブ・シンドローム 8 

「ここが医学部の教育棟。ここで講義を受けてるんだ」
「うわっすごい広いんだね。英徳も広いけどここはケタ違い!」
「あっちは附属病院と子ども医療センター」

緑の多い敷地内に点在する大学の施設を案内されながら花沢類がイキイキした表情をしていることに気づいたアタシは、その表情を見ているだけでなんだか嬉しくなっていた。

「なに?」
「え、ああなんか英徳にいたときよりも口数は多いし表情も穏やかに見えるからさ。充実してるんだろうなって思ったらなんか嬉しくなっちゃって」
「変なの。で、こっちは看護学部の建物だから俺は入ったことない。ああ、そこが学生食堂ね。後でいってみよう」

まるでひとつの街が敷地内に凝縮されているような大学内。ここで花沢類が充実したキャンパスライフを送っているんだと思うと今度は羨ましくなってきた。

大丈夫だよ、と言われて医学部棟に入ると白衣を着た学生数人とすれ違い、医学部であることを実感せずにはいられなかった。

「今はまだ講義のほうが多いけど、ここは結構早い段階から実習とかあるんだ。解剖学も最初は気分が悪くなったけど今はもう大丈夫。あ、付属病院のほうにも行ってみる?今日は外来がないから静かかもしれないけど」
「うん、行ってみたい」

こっちだよ、と背中を押されながら附属病院に入って行くと、入院患者が庭を散歩したり、お見舞いに来る人の姿が見える。
お見舞いの人に紛れて病棟に行ってみようという花沢類に付いていくと、そこにはいろんな人間模様が見えるようだった。

アタシが特に惹かれたのは産婦人科病棟。花沢類がトイレに行ってくると言うので談話室で戻るのを待っていた。
しばらく窓の外を眺めながら花沢類を待っていると、少し離れた場所で家族と談笑するひとりの産婦がいて、その穏やかな表情に思わず見入ってしまった。

家族が席を立つと見送りに立った産婦は、ずっとその光景を見ていたアタシに気付いて声をかけてきた。

「お見舞いですか?」

まさか声をかけられるとは思っていなかったアタシはシドロモドロになりながらも

「あ、い、いえ。実はナイショなんですけど…見学に来てます。いつ、ご出産されたんですか?」
「一昨日です。ふたり目だから余裕だと思ってましたけど、やっぱり痛いものは痛かったですよ」
「どれくらい痛いもんなんですか?」
「ふふふ、よく鼻からスイカ、なんて表現をしますけど、まさにそんな感じ。でも産んだ瞬間に痛みが嘘みたいになくなって幸せな気分になれるんです」

いきなり消える痛みに突然来る幸福感。
出産のリアルな経験を聞いたのはこれが初めてだった。
当然アタシにだってお腹が痛くなることはあるけど、そんな経験はしたことがない。

この人の話をもっと聞いていたい―

「ああ、これから沐浴指導なんです。ごめんなさい」

そういうと産婦は軽く会釈をして席を立った。
そんなやりとりをいつの間にか戻ってきていた花沢類が見ていたことにも気づかず、『いきなり消える痛みと突然来る幸福感』について考えていた。

「牧野?」

花沢類に声をかけられて我に返ったアタシは、不思議な感覚に襲われながら談話室を後にした。


***


「これ…本当に花沢類の部屋なの?」
「まあ…一応ね」

照れたように苦笑いする花沢類の宿舎の惨状を目にしたアタシは持ってきたエプロンをきつく締めてまずは窓を開ける。

必要なモノ以外置かれていなかった花沢邸の類の部屋を知るアタシにとって、この光景は衝撃的すぎた。それと同時に独り暮らしの男性の部屋ってこんなもんなのかなと思ったりもする。

どこに何があるのかがまずわからない。書類やテキスト、医学書なんかがあちこちに積みあげられ、壊れた掃除機の横には新しく買ってきたと思われる掃除機が箱に入ったまま置かれている。

簡素なキッチンは比較的キレイだが、それが却ってきちんと食事を摂っているのか不安にさせる。

「さ、やるよっ」
「なにを?」
「掃除に決まってるでしょ!!」


***


「ああ、疲れた…」

まったく。自分の生活空間だっていうのに一切何もしようとしない花沢類。
結局アタシがすべての掃除をして、簡単な食事まで作ってきた。

「アタシは花沢類のお母さんじゃないんだけど…」

帰りの電車の中で何度も思い出し笑いをしてしまう。
正直暮らしぶりは褒められたもんじゃないけど、充実した毎日を送っているのが聞かなくてもわかったのが何より嬉しかった。

大学内を見学できたこともアタシにとっては大きな収穫だったかもしれない。

特に産婦人科病棟で産婦さんと話したこと。
出産を経験したことのないアタシにとっては謎も多く、生命の神秘についてもっと知りたいと感じてしまった。

あそこに行くまではただ漠然としていた医学部という場所。
実際に大学内に足を踏み入れ学ぶ環境を知った。

アタシにできるだろうか。

もちろんいろんな問題があることはわかる。それでも医療についてもっと知りたいという気持ちを持ってしまった。

アタシに人の命を預かる仕事をする資格があるんだろうか。
あるとしたら挑戦してみたい。

今は4月下旬。
道明寺とのこともあるし、もっとじっくり、慎重に考えなきゃいけないな…。









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4 Comments

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2016/10/23 (Sun) 09:19 | REPLY |   

やこ  

aoi様

ほんと、類つくになってるよね。うん。こんなんでいいのかと思った瞬間もあるけど、これでいいんです。

チェリーのまま朽ち果てる…
姉さん、ツカサスキーを敵に回してるから(笑)
発言は、おいらがブチ壊します!

2016/10/23 (Sun) 10:43 | REPLY |   

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2016/10/23 (Sun) 12:20 | REPLY |   

やこ  

kachi様

へへ。今回もモヤモヤしてくださったようで(笑)
私もモヤモヤしてますが( ̄∇ ̄;)ハッハッハ

つくしちゃん産婦人科を目指すんでしょうかね?私もまだ決めてませんけど、目指す気がする(アンチョクですね)

嵐にしやがれ、見ましたよ。MJサイコーでした。
いいな、水族館でMJに声かけられたら死んじゃうかも。

2016/10/23 (Sun) 17:14 | REPLY |   

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