20years 父と子 6 

「父さん」
「おう、冷えるな」

東京より少し北にあるこの地域は気温が下がるのも比較的早い。深夜になれば真冬までとは言わないが、気が付くと息が白くなっていることもある。

「何してんの、こんなとこで」
「オレも同じこと聞きたいね」

父はこちらをを見ることなく自分が着てきたウインドブレーカーを俺に向かって投げた。
寒くないからいらないよ、と返そうとするが

「風呂入ったんだろ?着てろ」

と受け取ろうとはしない。
確かに風呂には入ったし、だいぶ冷え込んで来ている、風邪引くのは嫌だなと袖を通してまた空を見上げた。

「星」

突然父が呟く。

「東京とは違って、星がキレイだな」
「そうかもね」
「あっちでもオリオン座はよく見えたが、ここはベテルギウスとリゲル以外はよく見ねぇと見分けがつかねぇな」

父の口から星の名前が出てくるとは意外だった。
星をボーっと眺めることはあっても名前を知ろうと思ったこともなかった。

「詳しいね」
「オマエの母親を口説くためにバカデカイ望遠鏡用意して土星見たことがあったな、昔」
「へぇ」

それは初耳だ。
花沢さん達にいろんな話を聞いてはいたが天体観測の話など聞いたことがなかった。

そんなことを思っていると冷たい風が吹いてきた。堪らずウインドブレーカーのポケットに手を入れると固い物に手が触れた。そっと取り出すと、見覚えのある小さな箱がそこにある。
父を見ると相変わらず空を見上げてこちらを窺う様子もない。

そっと箱を開けると夕方リビングで見た腕時計が収まっていた。

「それはオマエのだ」
「えっ」
「つくしのヤツ、オマエの分の時計をサイドボードの引き出しに入れたまま居眠りしやがった」

てっきり自分の分はないものだとばかり思っていた。まるで自分の分がないことに拗ねていると思われているようでカッコ悪かった。
箱から時計を取り出すと、その拍子に小さな黒い塊が落ちた。急いで拾い上げると黒いUSBメモリだと気づく。

「いいか翼」
「何…」
「オマエの論文に手を付けたことは悪かったと思ってる。文章の組み立てが苦手なオマエを思ってやったバカ親だと笑ってもいい」
「いや、それは俺もちょっと言いすぎたし、あんなことくらいで…」
「いいから聞け。オレの作った論文、データも全部消したよな?」

データは家を飛び出す前にすべてデリートしたし、プリントアウトしたものもゴミ箱に捨ててしまったことを思い出す。

「ああ、せっかくやってくれたのに、ごめん」
「いや、それはいい。オレの作ったものは捨てて構わない。だがな翼」

父の作った論文を消去してしまったことを後悔し始めていた。データとしては消去してしまったが、まだ自分の部屋のゴミ箱には入っているはずだ。まとまった時間があれば作り直そうと思い始めていた。

「自分が作ったものは、どんなに使えないモノだと思っても絶対に捨てるな」
「え?だってボツはボツじゃん」
「あのな、世の中のビジネスの中には捨てようと思って捨て忘れたアイデアがビッグビジネスになったっていう例はいくらでもある。生み出したものに無駄なものなんて絶対ねぇんだよ」

確かに捨てられるはずの案が大きなビジネスにつながった例は多い。ただ俺にはボツになったものを手元に残しておいても仕方ないと思っていた。
父は俺に近寄り、左手に持っていたUSBメモリを取り上げ目の高さで横に振りながら更に言葉を続けた。

「これはオレがオマエと離れて暮らした20年間のボツネタが凝縮されたUSBだ。東京から引き上げた時点で更新はストップしてる。いいか翼、これはオマエにやるから、続きのボツをここにどんどん入れていけ」
「これ、容量のうちどれくらいデータ入ってるの?」
「半分くれぇかな、覚えてないな」

よく見るとUSBには128GBとプリントされている。
WordやExcelやテキストで60GB以上あるとなれば膨大な量だ。

「これは、宝箱ってことね」
「あ、そーいうことだな、無くすなよ」
「ありがとう」

父と俺。ふたりで目を合わせてニヤリと笑う。
一緒に暮らし初めてまだ数年。こうやって喧嘩しながらのんびり父子になっていくのだろうかと俺は思っていた。

「さてと…俺はつくしが待ってるから帰るぞ。オマエはどうすんだ?」
「父さんと母さんが仲良くするんじゃつぐみの面倒誰が見るんだよ。ちょっと待ってて、美佐ちゃんに声かけて帰る準備してくるから」









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4 Comments

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2016/10/13 (Thu) 21:14 | REPLY |   

やこ  

スリーシスターズ様

ラブがなくってホームドラマテイストになっており、読みに来てくださる方には申し訳なく思っております。
連載がスッキリしたら、ラブな短編かふざけたコメディでも書きましょうかね。

ハイ、この度テンプレートを変更いたしました。
紫…バレてますね、さすがです。
FC2のテンプレって紫のものが少ないんです。なのでちょっとだけ(画像部分)改造しまして依然のキラキラは受け継いでおります。
今回の変更はカテゴリとリンクが増えてズラズラしていたのでスライダー(っていうんでしょうか)で開閉できるタイプにしてみました。おかげでちょっとスッキリしたかな。
PC版もほぼ同じですが、ちょっとメニューが見づらいんです。
知識がないので苦労してますが、もうちょと調べて(無理ならPCの師匠に助けを求める)見やすくなるようにしていきたいな。

2016/10/13 (Thu) 23:37 | REPLY |   

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2016/10/14 (Fri) 13:37 | REPLY |   

やこ  

まりぽん様

私が二次小説を書き始めたころ、私は司が好きなので、私が萌える司を書きなさいとある先輩作家さんに言われたんですよ。
今まで自分で「この司カッコいいな」と思えるお話を書けなかったので、今挑んでるといったところでしょうか。

高校生や20代のように若い司ではないですけど、同年代になったシブくて仕事の出来るカッコいいオヤジ司になってればいいな。

2016/10/14 (Fri) 19:12 | REPLY |   

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