20years 父と子 4 

20年も離れて暮らしていた俺は家族じゃないってことか。

決して時計が欲しかったわけじゃない。

でも空白の20年という時間は自分なりに埋めようと努力してきたし、なるべく父と会話を持つように心がけてきた。

論文の件だって少し大人げないことを言ってしまったと反省はしていたし、ビジネスに関しては飛びぬけたセンスと実力を持った尊敬できる人だと思っている。

それをあんな幼稚な…。

まるで小学生のイジメみたいじゃないか。

1台しかない車はつぐみに何かあったときに必要だと思って自転車で家を飛び出した。時間は21時を過ぎたところで田舎の個人商店はみんなシャッターが閉められている。

コンビニやファミレスで時間を潰すことも考えたが、なんとなく誰かと会話がしたかった。
大学の友人のところへ行くことも考えた。でもみんな実家暮らしで家族もいる。

こんなな時に俺が頼るのはいつだって母親同然の美佐子だった。

気づけば美佐子の自宅の前に立つ俺。

ドアの前に立ってチャイムに手をかける。
押すか押さないか、俺は何を躊躇しているんだろう。

美佐子に会って何を話すつもりだ?
親子喧嘩の愚痴を話していったいなんになる。

やっぱり家に帰ろう。自分の部屋に籠れば父と顔を合せることもないだろう。

玄関ドアに背を向け自転車に跨ろうとしたとき、ドアがガチャリと開いて声がした。


「翼、何してんの。入りなさい」
「み、美佐ちゃん」
「あんたの母さんから電話があったんだよ。きっとうちに来るだろうから場合によっては一晩泊めてやってくれって」


母さんめ、余計なことを。
ただなんとなく美佐子の言葉が温かく感じられ、「帰りなさい」ではなく「入りなさい」と言われたことが嬉しかった。

美佐子の家に入って勝手に食器戸棚のカップを手に取る。
小さな頃から何度も入ったこの家は俺にとって安らげる場所のひとつでもある。

インスタントコーヒーを入れてリビングに戻ると、バラエティ番組を見ながら豪快に笑う美佐子がいる。

社長の割には質素な生活ぶり。
独り者で社長ならもっと贅沢してもいいのにと思うこともある。


「何してんの、座んなさいよ」
「ハイハイ勝手にさせてもらいます」
「どうすんの、泊まる?」
「うーん、わかんない」


泊まると言っても着替えがない。
さすがに美佐子の下着を借りるわけにもいかないし、コンビニまでいくなら美佐子に車を借りなければならない。


「泊まるなら着替えあるよ」
「どこの男の着替えを俺に着ろって言うんだよ」
「バカ。翼用のだよ」


俺用?
そんなものをこの家に持ち込んだことはない。最後に泊まったのだって確か中学生くらいのときだったはずだ。


「なんで俺のがここにあるの?」
「ん、あるいいオトコから頼まれてね。もしかしたら使う時がくるかもしれないから置いておいてくれって」


あるオトコ。
父さんに間違いないのだが、なぜ美佐子の家に俺の着替えを置く必要があるんだろう。


「何、親子喧嘩?」
「別に…」
「中学以来うちに泊まりに来なくなったあんたが来たんだからよっぽどのことがあったんでしょ?」
「…」


家族同然の存在だが何故か今夜の出来事を言うのが恥ずかしかった。


「何があったんだかしらないけどさ、あんた達って実の親子のくせに20年も離れてたじゃない。それってある意味母親が再婚して新しく父親ができたのと似てると思うんだよね」
「ああ、確かにそうかも」
「でもやっぱ決定的な違いがあるなって思ったね」
「そりゃ実の親子だし」
「そうなのよ」


まったく仕事しながら何を考えてるんだかとため息をつきながらコーヒーをすする。


「この着替えさ、道明寺さんが数か月くらい前かな。オレと衝突することがあれば翼が逃げ込むかもしれないからって私に渡すわけよ」


父はこの状態を数か月前に予測していたってことなのだろうか。とにかく美佐子の話は興味深かった。俺はなるべくそれを悟られないように目線はテレビに向けつつ話を聞く。


「つぐちゃんが産まれたら翼よりもつぐちゃん優先かと思ってたのよ。ぜーんぜん違うの」
「そんなことないでしょ?」
「あんた幸せもんだね。道明寺さんったら営業先でも息子の自慢ばっかしてるよ。おかげであんたをうちにくれって会社がいくつもあるんだから」
「は?」


ニヤニヤしながらこちらを見る美佐子。


「まあ、ほら。自分の子どもたちだから差別するってわけじゃないんだろうけどさ、翼のことは特別なんだって思ったわ」
「なにそれ」
「まあ自分が親になったときにわかるんじゃないの?残念ながら私には一生わかんないけど」


親になったときにしかわからないなら今は理解できないってことか。
なんだかスッキリしないが、美佐子の次の言葉に衝撃を受けた。


「本人から聞いたわけじゃなけどさ、道明寺さん、20年間にあんたにあった出来事、ほとんど把握してるんじゃいかな。たぶん小中高の成績は全部頭に入ってるし、写真やビデオなんかは全部見たはず。あとはそうだね、母子手帳の内容まで全部把握してなきゃあんなに自慢はできないと思うよ」
「母子手帳まで?」
「そう、何歳で予防接種してるとか水疱瘡はいつだとか、母親でも覚えてるかどうかわかんないことまで知ってるんだよ」









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8 Comments

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2016/10/10 (Mon) 14:01 | REPLY |   

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2016/10/10 (Mon) 17:54 | REPLY |   

やこ  

moka様

神コメントありがとうございました。
外出先で読ませていただいたんですけど、ブッとか噴き出してしまいました。
もうっ、罪なお方ね(・∀・)ニヤ

美佐子さんは本編でなんとなく登場させたオリキャラだったんですけど、気づけば消えていたので今回ちょっと重要な役どころをまかせてみました。

2016/10/10 (Mon) 19:41 | REPLY |   

やこ  

さとぴょん様

書いてから読み返したんですけど、つくし母さん、翼の時計だけ引き出しにしまっちゃって、ほかの3つ出しっぱってかなり痛恨のミスですよね。
マジ殴られるレベルかと…。いや、殴られるのはワタクシですね( ̄∇ ̄;)ハッハッハ
このお話にラブはございませんが、(無理矢理ブチ込む?)離れていた親子愛が書きたくて始めました、というのは嘘で、完全ネタ切れで苦し紛れに書いております。
続き書けんのかな、終わらせられんのかな。
さとぴょんさん、続きお願いしますΣ(゚∀゚ノ)ノ

2016/10/10 (Mon) 19:45 | REPLY |   

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2016/10/11 (Tue) 00:07 | REPLY |   

やこ  

さとぴょん様

その衝撃の絡みはある意味読んでみたいです。
屈折しすぎた愛情の行方…衝撃の結末…!

そういうのは某作家みかん様(言ってる)にお任せしましょうか。
あ、奴は類つくだった…。

委員会やNFで(管理してたのはあくまで「潤」ですけど)さとぴょんさんのコメントを読ませていただいたとき「この人にお話書いてほしい」とどれだけ思ったことか。
以来私の中でさとぴょん様は軍神的(?)な位置づけで、さとぴょん様からのコメント欲しさにお話を書き始めた的な不純な動機があったりします。

なので来ていただいてめちゃくちゃ嬉しいのです。

2016/10/12 (Wed) 20:59 | REPLY |   

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2016/10/13 (Thu) 16:27 | REPLY |   

やこ  

さとぴょん様

超ロングコメント、幸せ過ぎて死ぬかと思いました。

いや~、実は「千冬」として覆面でお話書いていた時は、作家4名様と読者1名様にしか知らせずにいまして、特に作家様にはお話の書き方やらアクセスアップの方法などとても親切丁寧に教えていただいておりました。
カミングアウトしたのは仕事の都合上どうしても毎日更新が厳しくなってきたのと、本来私はへったくそなイラストを描いていましたし、放置状態でもいずれは充実させたいと思っていたからなんですね。
あっちへアクセス、こっちへアクセスとなりますと、結構大変ですのでね。

限定記事ですは、うちはエロいものはいただきものくらいしかございません。原作イラストや花男ドラマの模写が対象です。
それでも皆さん申請くださいまして間もなく100名を超えます。
うちは空ブログ推奨(?)でして、ブロともの皆さんの約9割は空ブログではないでしょうか。

少し前にちょっと考えさせられる出来事がありまして、ブロともさんがスムーズに閲覧できる方法も考えている最中です。
もしよければ申請ください。いっそこちらから申請に参りたいくらい「神コメンテーターさとぴょん」のファン、やこでございます。

2016/10/13 (Thu) 23:18 | REPLY |   

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