20years 恋が始まる 7 

可奈にいるはずの彼氏がいない。

それどころか元々そんなものが存在しないなんて翼は思いもしなかった。相談し合っていた時に聞いていた話はリアルだったし付き合っている男がいると信じて疑わなかった。


「いつか言わなきゃって思ってたんだけど。ごめんね、怒ってる?」
「いや…怒ってるわけじゃないけど…」


意外だった。

父親の祥一郎も総二郎同様に美形だし、母親の葵も年齢を疑うほど奇麗な人だ。当然可奈も社内の若い男性社員が憧れるほど美人で、元々彼氏がいないなんて信じられなかった。
だが同時に、特定の男がいないと聞いてなぜかホッとしている自分がいる。


「でも、なんでそんなウソを?」


混乱する翼は可奈のついた必要のないウソが不思議で仕方なかった。可奈の性格を考えると彼氏がいないことをカッコ悪いと思うはずもない。


「翼くんにはわかんないかも」

可奈の言うとおり翼にはさっぱりわからない。
するとタクシーが1台近づき3人の前で停まった。


「ごめん、やっぱり私電車で帰るね。翼くん乗って!」
「え、ああ、うん」


可奈は翼をタクシーに乗せると持っていた翼のバッグを渡して運転手に成城まで行ってくださいと告げる。ドアが締まると翼は窓を開けた。


「気を付けて帰れよ」
「うん、また月曜日ね!」


タクシーはゆっくりと走りだし、手を振る可奈の姿はどんどん小さくなる。

いくら考えてもやっぱりわからない…。

翼は自分の膝の上でスヤスヤと眠る妹の髪を撫でながら、可奈がなぜあんなウソをついたのかを考えた。


***


「ただいま…」


10時を少し過ぎたところだというのにマンションの電気が点いていない。
だが両親の寝室からゴトゴトと音が鳴り、時折中から聞こえる声に翼の頭はますます痛くなった。

つぐみをベッドに横たえると、静かに部屋を出て洗面所へ向かう。

冷たい水で顔を洗うと、目の前にある鏡で自分の顔をじっと見つめていた。
ポタポタと水が足元に落ちる。
翼はタオルを棚から取り出し顔を拭くと乱暴に脱衣かごに投げた。つくしがうるさいから普段なら足元の水もしっかりと拭き取るところだが、それすら面倒で洗面所を出てリビングに入り電気も点けずにソファに寝転がる。

可奈がウソをついた意味。
翼にはわからないと可奈は言った。

息苦しくなった翼は湿ってしまったネクタイをほどくと床に投げ捨てた。

いつもならこんなに可奈のことを考えることはない。どうやってもわからないことは考えても仕方ない。

翼は目を閉じて忘れようとした。

するとパッとリビングが明るくなり、足音が聞こえてきた。
あの音は父さんだなと思いながらも翼はそのまま面倒で目を閉じていた。


「うおっ!」


真っ暗で誰もいるはずもないリビングのソファに寝転がる大男に気づいた司は驚いて大声を上げた。


「翼か?」


翼がゆっくりと目を開けるとガウンを素肌にまとい裸足で翼を見る司の姿があった。
服を着てしまえばわからないが、ガウンから見え隠れするように胸元に意図的に付けられた無数の赤い痕。
母さんもかよ…と翼は更に頭が痛くなる。


「オマエ、電気も点けねぇでなにしてんだよ」
「いや…なんかもうめんどくさくてこのまま寝ようかなと」


司は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、キャップを外してそのままゴクリと飲んだ。
オマエも飲むか?と飲みかけのボトルを翼に渡すと、翼は残りの水を飲み干した。


「珍しいな、西門のお嬢となんかあったのか?」
「まあそれなりに…」


父親として一緒に暮らすようになってから5年。最初はなんとなくギクシャクした関係だったが今はもう父子に見えない壁はない。
お互いに変な気を使うことも滅多にないし、気に入らないことがあれば喧嘩もする。
ただ司は翼が自分から言わない限り、何かあっても決して深く聞いてくることはないしそんな不器用な優しさが翼は好きだった。


「父さんはさ…」
「ん?」
「若いころすっごくモテたと思うけど…女心って奴には詳しいワケ?」









拍手ボタンにオマケがあります
今日の運試し再び


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

あなたのポチが力になります
応援お願いします!
関連記事

4 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/08/30 (Tue) 21:30 | REPLY |   

やこ  

悠香様

意識したワケじゃないんですが。翼の性格がどんどんつくしっぽくなるのは何かの呪いでしょうか?

ひとりで書いてると諦めるのが簡単になりますよきっと。
なのでコメを残して「続き書けww」と変なプレッシャーを与えてみたりする(笑)

2016/08/30 (Tue) 22:18 | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/08/30 (Tue) 22:53 | REPLY |   

やこ  

悠香様

ドライブ中に思いついたしょうもないお話をこんなに愛していただけるとは思いませんでした(笑)

そんなことないですよ。某作家さんも楽しみにしてました。今旅に出てますけど(爆)
私も始めたときはすごく不安で、お話も迷走してるしいろんな方に心配されてました、というか今でもされてます。
それでも何とか続けられてるのも皆さんからの応援のお陰です。
なので悠香さんも皆さんに知ってもらうところから始めてみるのもいいかもしれないですよ。
私も見切り発車もいいとこでしたけど、覆面で活動していたにも関わらず多くの方に知っていただけましたから。
まだまだエラそうなことは言えない御身分です。お互い頑張りましょう!

2016/08/30 (Tue) 23:47 | REPLY |   

Leave a comment