20years ago アノトキのふたり ⑦ 


産むと決めた以上は司に知らせなければならない。
NYとの時差は?
今電話してもあっちは真夜中のはず。

―早く知らせたいな。喜んでくれるかな?

―あ、大学辞めることになるかな?

―パパやママは踊り狂うかしら。

退院の準備をしながらあれこれと考える。
ひとりでに頬は緩み、ことあるごとに左手で愛おしいお腹を撫でる。

「元気に産まれておいで」

するとバタバタをあわただしく病室の扉が開く。
「牧野っ…!」

「あ、美作さん。心配かけちゃってごめんね。もう大丈夫だから退院するね」
あきらのうしろにはどことなく落ち着かない表情でつくしを見つめる総二郎と類がいた。

「?どうしたの??」
「牧野…テレビをつけてみろ」
ニコニコと笑いながら、どうしたのよ?とテレビのリモコンを操作するつくしと対照的に、緊迫した表情を見せる3人。

液晶画面には昼間再放送している時代劇が映っているが、ピロンピロンという音とともにニュース速報が表示される。

『道明寺ホールディングス、経営難による崩壊の危機』


「なによ…コレ。冗談でしょ?」

「牧野…」
「やだなぁもう、こんな手のこんだイタズラして。お金持ちのすることは理解に苦し…」
おどけて言う言葉を遮るように類が言う。

「牧野。これは本当のことなんだ。司の会社は創業以来最大のピンチなんだ」
「もう、騙されないからね…。天下のF3が揃いも揃って!悪質ないたずらはもう勘弁してよ!」
「牧野…」
信じない。信じられない。信じたくない。

「道明寺は…約束したもん。4年で迎えに来るって」
「牧野…ちゃんと聞けよ…」
「西門さん、それ以上言わないで。アタシは信じない、こんなことでダメになるはずない」
「牧野っ!待てっ」
紙袋に入った少ない荷物を持ち、不安そうな表情を浮かべる3人を振り切るようにして病室を出た。

「オイ、マジでヤベーよ」
「ああ、参ったな」
「今はオレたちにもどうにもできない。見守るしかないよ」


*********


アパートに戻ったつくしは、荷物を投げ捨てるとまずテレビのスイッチを入れた。
どのチャンネルを回しても通常の番組は放映されておらず、財閥解体の危機に瀕した道明寺ホールディングスの状況と、鉄の女・道明寺楓の無理な経営実態について報じている。
時折司の映像も流れる。そのたびにそっとお腹に手を添える。

―あと3年で戻ってくるのは無理なんだ…。

さっきまで司とお腹の赤ちゃんとの新しい生活を思い描き幸せな気分に浸っていたのがウソのように思えた。

「ははは…結婚や妊娠報告どころじゃないね」

乾いた笑いが虚しい。

―堕ろす?

そっと添えるようにしてお腹に置いていた手に力をこめる。

ちょうど画面に映し出された司の写真に向かい、つくしは力強く言った。
「道明寺。アタシひとりでもこの子を産むよ。強く生きていく。だから…」

大きな瞳からは涙がこぼれ落ちる。

「負けないで…」









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2 Comments

かなた  

つくしさん。負けないで。ピンク色をイメージすると母子共に落ち着くらしいですよ。

2016/04/29 (Fri) 16:38 | EDIT | REPLY |   

やこ  

かなた様

なんてお優しい…
私はこれを書いたとき、必死すぎて自分の周りがブラックでした(笑)

2016/04/29 (Fri) 19:12 | REPLY |   

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