20years 修正版④ 


「ねえ美佐ちゃん、美作商事って知ってる?」
お見合いの報告がてら美佐の自宅に寄った翼は、自分の家のように食器戸棚からカップを取り出しインスタントコーヒーをふたつ入れていた。

「そりゃ世界的にも有名な企業だしね。ただこんな地方の弱小企業じゃ取引するなんて夢のまた夢だねぇ」
お客さんにケーキもらったから一緒に食べよう、と言う美佐子にコーヒーを渡してダイニングチェアに腰を下ろす。

「オレ大学でそこの専務に名刺渡されて、母さんに渡してくれって頼まれたんだよ」
「へぇ、つくしが美作商事の専務とどう知り合いなんだろ」

「美佐ちゃん知らないの?」
「知らないよ」
一口コーヒーをすする美佐子から嘘をついている様子は感じられない。

「昔の知り合いかもしれないね。ナントカっていうセレブ学校に通ってたって話は聞いたことあるよ。まぁ事務所に行けば履歴書あるけど見たことないや」
「セレブ学校?」
翼は初めて聞く内容に驚いていた。母親が大学を中退して自分を産んだことは知っていたが、どこの学校に通っていたかまでは聞いたことがなかったし興味もなかった。

「あの母さんがねぇ」
箱に入ったケーキを手で掴んでそのまま口に運ぼうとすると、美佐子にフォーク使いなさいと怒られる。ハイハイと言いながら皿に移してフォークを刺す。

「交差点のとこにオシャレなカフェができたの美佐ちゃん知ってる?」
「私が知るはずないじゃん」
ごもっともな答えに苦笑いする。

「そこで、その専務さんと母さんが、なんか深刻そうな顔して会ってたんだよね」


*********

「お願い美作さんアタシたち生活に困ってるワケじゃないし、幸せに暮らしてるからそっとしておいてくれない?」
消え入りそうな声であきらに向かって言葉を紡ぎ出す。

「オイ、牧野。そいつはちょっと水くさくねーか?」
この人はいつだってみんなを優しく見守る人だったね。

「水くさいって…そうじゃない。放っておいて…ほしいだけだよ。ちゃんと幸せに暮らしてるし」
「司の子供なんだろ?」

「……」
「牧野」

「……ごめん」
「オレはオマエの口から謝罪が聞きたいワケじゃねぇよ。司の子供だって言葉が聞きたいんだよ」
言葉を濁すつくしにさすがのあきらも苛立ちを隠せない。

「言いたくない…」
やっと出た言葉だが、これであきらを言いくるめたとはつくしも思っていない。

「いいか牧野。オマエが姿を消す少し前に司の結婚話が出たのは知ってるな?道明寺財閥が崩壊寸前で持ち上がった話だ」
「そうだっけ。忘れちゃったよそんな昔のこと」

「いいから聞け。とにかくあの時の道明寺財閥は最悪な状態だった。何万人という社員の生活もかかってたしオヤジさんは復帰できる状態じゃなかった」
「……」

「その原因を作ったのはあのお袋さんの無理な経営だった」
幾度となく二人の恋を邪魔し、二人の仲を壊すために友人の幸せまで奪おうとした女の顔もいまはよく思い出すことができない。
財閥の経営が傾き始めていたことは知っていたが、姿を消してからは敢えて知ろうとしなかったし、この田舎町で暮らしていくには必要のない情報だった。

「別に…アタシには関係ない話だし」
もう辛い話は正直思い出したくなかったし、美佐子に助けてもらいながら翼と暮らす毎日は大変だけど幸せだし楽しい。平穏な生活を壊したくはなかった。

「司、あの難しい状態から財閥を解体することを選んだんだ」
あれだけの財閥が崩壊を迎えるとなれば、さすがに田舎に引きこもっていたつくしの耳にも入ってきた。社員の生活を守るためにグループ会社を売ったというところまではつくしも知っていたが、司がその後どのようにして生きてきたかは知らなかったし知りたいとも思わなかった。

「ウンそれは知ってるよ。毎日ニュースで聞かない日はなかったもんね」
これ以上司の話は聞きたくないと無理に笑顔で、アイツ元気にしてるの?それならいいよと答えると

「司の手元に残ったのはインターネット関連企業だけ。しかも当時はいつダメになるかもわかんねぇような状態だった」
「そうなんだ。苦労したんだね。坊ちゃんだったし大変だったんじゃないかな。でも庶民の生活知ることできて、経営者として一回り大きくなってればそれでいいんじゃない?」
あくまでも他人事のように答え、乾いた笑いで返していた。

「牧野」
「ん?」

「よくひとりで産んであそこまで立派に育てたな」
もうこれ以上司のことを話すのは無意味と思ったのか、突然話題を翼のことに変えた。

「そうだね、大変なことばっかだったけど、ずっと幸せだしこれからも幸せだよ」
これだけは自信をもって言えること。これまでネクタイに合せていた目線を、あきらの目に合わせて力強く答えた。

「だから美作さん、道明寺に伝えてよ。アンタとアタシたちは他人だし、アタシたちは幸せに暮らしてるからアンタも幸せになってね…って」
何故かはわからない。こぼれそうになる涙を必死で堪えながらそう答えていた。









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4 Comments

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2016/04/03 (Sun) 11:31 | REPLY |   

やこ  

きな※もち様

現時点ではブロともさんもパス入室者もそれほど多くないのでおそらく万年1番乗りかもよΣ(゚Д゚)
そうそう私たちのMJは爺さんになってもステキな…ハズ(笑)
いい年の取り方するんだろうなぁ。キングカズみたいな
花男のキャラって高校生とか大学生の時点で終わってますけど、自分と同年代の姿を想像したくて書いたんですけどね。
完全な見切り発車&失敗作(・。・;
仕事で旅行の記事を書いてますけど、小説は全く別次元!
何度も言うよ~♪
「もう二度と書かねぇっ!!!!」

2016/04/03 (Sun) 13:17 | REPLY |   

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2016/04/03 (Sun) 15:47 | REPLY |   

やこ  

さ※ちゃん様

山も谷もなだらかすぎてしょーもない話ですが、気に入っていただけて嬉しいです。
文章を書くのが本職なんですが、小説は畑違いなのでホント大変でした。
難産だけに思い入れもある?
でもハズい(笑)
機会があれば挑戦してみたいという気持ちもありますが、どうかなぁ(笑)

2016/04/03 (Sun) 17:01 | REPLY |   

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