Answer 75 

「いいのか、それで」
「当たり前よ。もう過去は振り返らないし、同じ過ちなんて犯さない」
「お前らしいな…」
「で?道明寺は?」
「?」

突然自分に振られた司は訳が分からず聞き返す。

「俺がなんだって…」
「あたしは自分の気持ちに自分らしくきちんとケリつけたつもり。あんたもごちゃごちゃ難しいこと言ってないで、自分の言葉できちんとケリつけて」
「いや、俺は…」
「あたしを傍に置くですって?その言い方、すっごく腹立つ。結局あんたはあたしがいなきゃ全然ダメってことでしょ?なら素直に言えばいいじゃん、傍にいてください、って」
「お、お前…」
「それに、忘れてるみたいだけど、あんたあたしにヒドイことしたよね?覚えてる?」
「ひどいって…あ…」
「その謝罪もね」
「う…」

司はつくしの顔を見ていることが出来ず、誤魔化すようにつくしを抱きしめた。

「わ、悪かったよ…」
「こんなことで騙されないから」
「俺はお前しか抱けねぇんだ。それでわかるだろ?」
「そんなんじゃわかんないし」

つくしは司の胸に抱きしめられながら、意地悪く言う。
司は敵わないと思ったのか、つくしの両肩をそっと掴んでまっすぐ見つめた。

「一度しか言わねぇぞ」
「一度しか聞かないから…」

すぅと一度大きく息を吸うと

「俺にはお前しかしない。お前がいないと全然ダメな男になっちまう…だから、頼むから一生傍にいて俺を助けてくれ」

つくしは弱々しく呟く司が堪らなく愛おしく、背伸びをして唇にキスをする。

「しょうがないなぁ…」

真っ赤になって目を背けながらも、もう一度つくしを強く抱きしめた。

「やっぱ、俺にはお前しかいねぇんだわ」
「そりゃそうでしょ、あたしにだってあんたしかいないんだから」

もうふたりに言葉はいらなかった。

「ここで引き裂かれたなら…またここから始めればいいじゃねぇか。いいか、今度は誰にも俺のこと売るんじゃねぇぞ?」
「望むところよ。あんたこそあたしに無理強いしないで優しくしなさいよ…」


******


「本当にそれでいいんですね?」

山本幸三は関係者を再びメイプルホテルに集め、楓の遺言書の執行についての最終確認を行っていた。
そこでつくしは正式に楓の遺言書にある「道明寺司の婚約者として財産を受け取ること」を辞退した。

「つくしちゃん、それは…」

心配そうな表情でつくしに尋ねたのは椿だった。

「はい、あたしには社長の遺産を受け取る資格はありませんし、元々お金に執着がないのはお姉さんもご存知ですよね?」
「でも…それだけじゃ…」
「姉ちゃん、それは俺も納得してることだ」
「あたしは誰かの婚約者になることを人に決められたくないんです。道明寺のことは好きですけど、今はそれだけで十分なんです。結婚するときはするだろうし、できないときはできない、それでいいんです」
「司もそれで納得していると言うの?」
「ああ」
「わかりました、それではそのように手続きを進めます。そして…」

幸三は静かに座っていた雪乃に問いかける。

「久我さん、あなたは?」
「……遺産を受け取ったからって、私の家族が生き返るわけじゃないわ…」
「その通りです。しかし今のあなたには、楓さんの遺産を受け取る資格があります」

雪乃はバッグから何かを取り出し司に手渡した。

「これは…」
「社長…あなたのお母さんが書いた手紙よ…」
「構わないのか…?」
「どうぞ…」

司はそっと手紙を開け、中身を取り出した。

*
*
*
*
*

久我雪乃様

貴女には本当に申し訳のないことをしたと思っています。
当時の私は自動車業界に殴り込みをかけようと躍起になり、どんな手を使ってでも君塚社長を説得するようにと指示を出しました。その結果手段を選ばぬ方法を取り君塚工業は倒産、ご家族が亡くなられたと知りました。
直接手を下すだけが罪ではありません。指示を出した私こそが貴女の家族を殺したのです。
その罪は私がこうして死んでお詫びしても、決して消せるものではありません。
貴女にご家族のことを許していただけるとは思っていません。ですが貴女の家族とその思いを憎しみによって潰してしまうのはとても残念なことだと思います。
貴女の苦しみをお金で解決するつもりはありませんが、君塚社長の技術を実子である貴女の手で復活してもらいたい、そのつもりで遺産の一部を君塚工業の再興費用として残すことにしました。
君塚工業の再興は私の勝手な希望です。貴女が再興するつもりはなく、もっと違うことに使いたいと思うのであればその用途は問いません。
今後貴女が心穏やかに過ごしていけることが私の願いです。

道明寺楓

*
*
*
*
*

かなり具合が悪くなってから書いたものなのか、文面も必要最低限のことだけを書き、筆跡もところどころ荒れている。
それでもこうして詫びる気持ちを書き遺したのは、心からの謝罪の気持ちがあったからではないだろうか。

司はそっと封筒に手紙を戻し雪乃に返した。

「私は、社長の遺産を受け取るつもりです。お金が欲しいわけじゃない、でも父や母が残した特許を世の中の為に役立てたい。そして天国の社長や副社長を見返してやりたい。それが私の復讐です」
「わかりました、ではそのように進めましょう」
「司さん、私は道明寺を崩壊させることを諦めたわけじゃない。いつかきっと正攻法で潰しに来る。だからそれまでせいぜい経営の力を磨いて待ってなさい」
「受けて立つ。待ってるぜ」

こうして道明寺楓の遺産相続は決着した。
それぞれの選択が正しいものだったのか、それを証明するのはまだまだ先の話である。

雪乃の君塚工業が成功するとは限らない、むしろ軌道に乗るまでに茨の道が待っているだろう。
そして、つくしがこの先、司の婚約者にならなかったことを後悔する日が来るかもしれない。
ふたりの選択が間違いなかったと、いつか楓の墓前に報告したいと司は思っていた。





なんとか年内に完結です!
明日6:00にエピローグ、12:00にあとがきとインフルエンザ休養中に貯めまくったコメント返信を更新します😉









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2018/12/30 (Sun) 19:23 | REPLY |   

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