Answer 68 

室内にいたすべての人間が、幸三の話を聞いて言葉を失った。
特に司の秘書である山本はまさか自分の身内がこんな重要なことに関わっていたなどとは思いもしなかったようで、普段クールで表情を変えることが少ないにも拘わらず、ポカンと口を開けて目の前で繰り広げられていることを呆然と眺めている。

「楓社長と私は、古くからの知り合いでね。仕事をし合うわけではありませんでしたが、長く相談を受けたりする間柄でした。息子が道明寺に入社するときにも、それはもうお世話になりましてね」
「あの…」

一同が呆然とする中で淡々と話し続ける幸三につくしはやっとのことで声をかけた。

「これはいったいどういうことなんでしょう…あたしは確かに楓社長に遺言書の作成を依頼されてこの場にいます。山本さんのことは何も…」
「そうでしょうね。このことはおそらく楓社長の側近である西田くんにも知らされていないはずです。そして牧野弁護士、楓社長がこのような手順を踏んだ理由はですね…あなたがこの遺言書のキーマンだから…とでも言っておきましょうか」
「あたしが?」
「ちょっと待ってください」

口を挟んできたのはこれまで部屋の隅で、山本に監視されるかのように椅子に腰かけていた雪乃だった。

「社長の遺言には私の名前もきちんと表記してあるはずよ!そんな…本当に社長のものかもわからない遺言書なんて無効だわ」
「ええ、もちろん久我雪乃さん、あなたのお名前もこちらの遺言書には記されていますよ。まあ…見たところ…日付こそ最新ですが…内容は一部の変更のみですからね」

黙って見ていた司も続けて言った。

「わかりました。それでは牧野弁護士の作成した遺言書との相違点を教えていただきましょうか」

するとつくしの手に戻した遺言書を再び取り上げ、鞄の中から1通の封筒を取り出し慎重に開けた。
幸三はリーディンググラスをかけ日付の異なる遺言書を見比べ、頷きながら時フムフムと呟いている。

「ええと、牧野弁護士はこの遺言書のどこまでを開示しましたか?」
「え…ええと…長女の椿さんとそのご子息に遺される遺産についての説明までを…」
「ならちょうどいい。そこまでの内容は全く同一のものです。ですからそこから先を私が読み上げます。お役目を奪ってしまって申し訳ありませんが、牧野弁護士もこのままご同席ください」

それだけ伝えると、静かに読み上げ始めた。

「重ねて申し上げますが、長男司氏、長女椿氏とそのご子息たちに残される財産の項目については牧野弁護士の説明の通りですので、続きの項目からご説明いたします。具体的な相続内容が記されていますが、却ってわかりづらくなるので最もわかりやすいご説明をさせていただくことをお許しいただけますでしょうか?」

司に向かって幸三は言う。問いかけられた司はゆっくりと頷き説明を求めた。

「遺言書の相続の配分で説明いたします。道明寺楓の財産の1/2を道明寺司氏に、1/4を道明寺椿氏とそのご子息に。1/16を、道明寺グループの発展の為に利用すること、アメリカのご主人の治療費として利用しその管理を司氏に委ねること、久我雪乃氏に対する退職金として3分割することとする」
「おい、どういうことだ?」
「そのままの意味でしょうね。久我雪乃氏には道明寺ホールディングスの専務職を解き、その退職金という名目で現金等が配分されています。これには注釈がございますので全てを読み上げるまで少々お待ちください」
「計算が合わねぇな…」
「もちろんです。まだ全財産の1/8の相続先を開示しておりませんので…」

思っていた内容と異なっていたのか雪乃の表情は曇っている。

「私はお金が欲しいわけじゃ…」
「久我さん、お待ちくださいと申し上げたばかりですよ」

穏やかな幸三が低い声で雪乃をたしなめた。
表情は柔らかいままだったが、やけに迫力のある声色にその場にいた誰もが背筋を伸ばさずにいられなかった。

「では続けます」

幸三は気を取り直してひとつコホンと咳ばらいをすると、再び遺言書を読み上げた。

「道明寺司氏の婚約者である牧野つくし氏に1/8を相続させるものとする」









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2018/12/28 (Fri) 12:20 | REPLY |   

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2018/12/28 (Fri) 13:13 | REPLY |   

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2018/12/28 (Fri) 17:13 | REPLY |   

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