Answer 66 

「なんだよ、それ…」

つくしが楓の語った思いを司に伝えると、司は信じられないという表情でつくしを見た。

「あの女…お袋は俺に対してそんなことは一度も…」
「言えるものなら生きてるうちにきちんと言えてたはずだよ。でもそんな感情は道明寺を支えて行くには不要だと封じ込めて生きていくことしかできなかったんだろうね。本当に不器用な生き方しかできなかった。でもね、社長は…あんたお母さんはあんたや椿お姉さんのこと本当に愛してたんだよ」
「…まで…」
「え?」
「そこまでしなきゃ、道明寺っていう化け物は守れないってことなのか…」

その問につくしは答えることはできなかった。
これからの道明寺を支えて行くのは司の仕事である。楓は鎧をまとうことで守ってきたが、司が同じようにする必要はない。しかしあれだけ大きな組織をまとめながら仕事以外の何かに愛情を注いでいくことができるのだろか。
司が自ら答えを出していかなければならないことで、他人のつくしには何も言うことができないのだ。

「伝えたいことは…それだけだよ。決して愛されてなかったわけじゃない。それだけは忘れないで…」

つくしはそれだけ言うと、副社長室を出ようと司に背中を向けた。

「牧野…」

大きな声ではなかったが、振り返ると司はまっすぐにつくしを見つめ

「俺、今からNYに行って親父に会ってくる。お袋のことも隠さずに話して…それから今後のことも相談して…みようと思ってる」

楓亡き今、司にとっての親はもはや父親しかいない。
彼がNYで父親に会い、何を得るのか。
つくしは微笑み返したあと副社長室を後にした。


******


司は極秘でNYへ向かい1週間で日本に戻って来た。
プライベートジェットで道明寺邸に戻ってすぐに、メイプルホテルに足を向けた。
報道各社に予めメールやFAXを送っており、道明寺ホールディングスの現状や今後など楓の死去のことも含めて記者会見を開くのだという。

西田からその連絡を受けていたつくしは、テレビでその光景を見守っていた。
株価の暴落や大河原グループや花沢物産への子会社売却について、また楓の死去についても堂々と受け答えを行っていた。
特に楓の死去については、なぜ公表がここまで遅れたのか、楓の遺した莫大な財産についてなどかなり心無い質問も飛び交い、テレビ越しに見ていたつくしの胸は押しつぶされるようだった。それでも答えられる範囲で、誠実に受け答えをする司が誇らしかった。

記者会見の様子がニュース番組の終了と共につくしの視界から消えた直後に、西田から楓の遺言書の公開と執行について、今夜行いたいという連絡が来た。
いよいよか、とつくしは全身を強張らせたが、時計を見ると西田に指定された時間まで3時間もない。
急いで身なりを整え、タクシーに乗って遺言書を預けてある銀行へ向かった。

ついに公開することとなる遺言書だが、執行するということは司が雪乃との婚約を認めない以上楓の希望通りの財産分与になることはない。
あれだけの事件を起こしておきながら、雪乃と婚約を認めざるを得ない司の心境は計り知れない。

ホテルのエントランスに辿り着いたつくしは、指定された部屋を向かうためにエレベーターボタンを押した。
右手に持った鞄の中には道明寺家の今後を左右する大事な書類が入っている。つくしは不自然にならないよう、尚且つ細心の注意を払いながら5階、4階と降りてくるエレベーターの表示を見つめていた。

その時、つくしの少し後ろでガタンという音がして、白髪の男性が誰かとぶつかった拍子に尻もちをついていた。

「大丈夫ですか?」
「ああ、失礼。大変お見苦しいところを…」
「お怪我はありませんか?」
「いえ、ただ転んだだけです」

男性を支えて立ち上がらせた。

「シワになってしまったな…今から重要な会合に出席しなければならんのですよ。身なりを直したいのでお手洗いの場所を教えていただけませんか?」

つくしはエレベーターホールの反対側にある化粧室まで男性を連れて行った。

「ありがとうございます。助かりました。改めてお礼をさせていただきたい。お嬢さん、お名前は?」
「あ、いえ。大したことはしてませんのでお気遣いなく…本当に大丈夫ですので…」
「重ね重ね申し訳ない。名刺をお渡ししますので、ご入用の時はご連絡ください。では私はこれで…」

男性は名刺をつくしに手渡すと、化粧室の中に姿を消した。
つくしは名刺をチラリと見た後そのままポケットにしまい込んだ。









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2018/12/27 (Thu) 18:08 | REPLY |   

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2018/12/27 (Thu) 18:30 | REPLY |   

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