Answer 65 

「司の父親とは政略結婚でした。お互いに愛し合って結婚したわけじゃなかったし、私よりも10歳も年上で話す内容に共通点はありませんでした…。結婚式の1か月前に初めて会って、2回目に会ったのが結婚式の当日。私は本当に親を恨んだわ。普通の恋愛に憧れたこともあったけど、それは諦めていました。それでも結婚する相手くらいはどんな人か知っておきたかった…」

司の父親には一度も会ったことがない。
母親の存在があまりにも大きすぎ、高校時代に倒れたと聞いた時に初めてその存在を意識した程度だった。

「でも本当に優しい人で、慣れない道明寺での生活にいろいろ気にかけてくださった。交際期間のない親の決めた結婚でしたけど後悔したことなど一度もなかった」

楓は窓の外を見る。まるでNYで病と戦い続ける夫を見るように。

「そして椿が産まれ、続けて司も産まれた。本当にあの時は幸せで…こんなに幸せでいいんだろうかと思わず悩んでしまったときもあったほどです。でもそんな幸せな時間は長くは続かなかった…。先代…司の祖父が突然亡くなって私が道明寺の仕事に携わることになって。椿と司をタマさんに任せて仕事に走り回るようになりました」

つくしは力なく微笑む楓を見て、本当に幸せな時期だったんだろうと思いを巡らせる。ちょうど父親が倒れたことでNYに向かった司のようなことが、かつて楓にも起きていたのだと。

「子供達との時間を持てるようにと、はじめは日本国内の仕事だけに専念していたのですが、今回だけ、次はない…ということを続けているうちに、週に一度月に一度…ついに年に数回と子供達に割ける時間が無くなっていった…。それでも椿はまっすぐに、素直に育ってくれました。でも反対に司は…どんどん荒れていきました」

中等部、高等部と荒れた生活を送っていたのがきっとこの頃なのだろう。
つくしも散々な目にあったな、などと当時を思い出す。

「牧野さん。ウサギのぬいぐるみはご存知よね?」

突然話を振られたつくしはドキリとして一瞬、何のことかよくわからなかったが

「あの、彼が刺されたときに病院にお持ちになった…」
「あのぬいぐるみは、実は私が作ったものなのです」
「!」

つくしは古い記憶を手繰り寄せた。

「確か…熱を出した彼に渡すようにとタマ先輩に託した…」
「ええ…。あの頃は日本とNYを行き来することが多くて。移動時間にジェットで少しずつ縫いました。実は私はとても不器用で…何度も何度も針を指に刺したのを覚えています」

司が生死の境をさまよっていた時に楓が持って来たということは、楓が保管していたことになる。そのことをつくしが考えていると

「司が中等部に入る前だったかしら…ちょうど反抗期に入って、かなり強い調子で叱りつけたら投げつけて来たんです。平静を装っていましたけどね…あれには参りました。その時だったかしらね、お腹の部分が破けて綿が出てきてしまって…。それからなんだか悲しくなってしまってね。見ていると落ち込んでしまいそうでずっと屋敷に隠しておいたんです。それを思い出してね…病院に持っていったんですけど…」
「そんな大切なものを捨ててしまうなんて、社長もかなりの頑固者ですね」
「幸せだったころの思い出まで捨ててしまったようで、とても悲しかったわね」

楓の語った思い出は彼女にとってほんの一部に違いない。
思い出を語る表情は世界中の母親のそれと何一つ変わらなかった。鉄の女などと呼ばれ冷徹で情け容赦ないと思っていた姿は厳しい世界を生き抜くための鎧だったのだろう。
気付けばつくしの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ち、どうか、いつかこの母親の愛が司に届いてほしいと願わずにはいられなかった。

「社長…大切な思い出を…あたしなんかに話してくださってありがとうございました。いつか必ず、道明寺に届くはずです…」









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2018/12/27 (Thu) 15:20 | REPLY |   

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